時差もあり4時頃に目が覚める。朝からスポーツチャンネルでラグビーの試合をやっている。朝からラグビーは重い。
明るくなって車に荷物を入れに行くと、猿が二匹屋根の上をうろついていた。尾の長い顔の黒い猿だ。
昨夜は若い女性が応対したが、朝は体の大きなおばさん二人で朝食を作ってくれた。あまり暑くないがこちらは真夏だ。雨が多いはず。天気予報もほとんど雨マークがついていて、何かしら降らない日は無いという感じ。ところが、おばさんに毎日降るの?と聞くと、最近夏にあまり降らなくなっていると。昔は夏は湿気が多かったけど、今年は特に乾いてる、ダムの貯水量も3割切っちゃって、水不足だと。そうか、それは住んでいる人は困るに違いないが、私は毎日降られるのは辛いので、ちょっとほっとした。
おばさんに見送られながら、一気に北へ。高速道路は車が多い。通勤ラッシュだ。そんなに無茶な運転する人もいないが、スピードを出せる所ではかなり出す。
高速は有料なところとそうでない所があり、約200キロ走ったが、二回料金所があった。まだ現金払いが多いようだ。カーナビがあったからさほど迷うこともなかったが、これが地図だけだったら相当大変だったに違いない。ある程度頭に入れてからでないと出られないだろう。
高速を出て、最初の岩絵サイトであるGiants Castleへ。山に入る道も、ところどころ穴があいているが、さほど悪くない。最後は未舗装の道に入ると思ったが(カーナビも、「未舗装の道に入りますが、いいんですね?」とか言っていた)。終点までちゃんと舗装されていた。こちらのカーナビは表示は日本のものに慣れていると使いにくいが、起動すると「このナビは8ヶ月前の地図情報を元にしていますので、道が変わっているかも」とか言う。これは日本のナビにない。それと、高速道路上のスピード違反取締カメラを教えてくれる。ねずみ取り探知機のような役割もあるのだ。親切!
高速を出てDrakensbergの山へ向かうと次第に高原のような景色になってきた。どこかイギリスの風景にも似ている。羊は少ないが、ヤギがたくさんいる。牛の放牧地になっているので、入植者がかなり手を入れているのだろう。
Giants Castleは自然保護地区になっているので、大きなゲートがある場所で入場料を払って入る。その先はコテージ形式の宿泊施設があり、そこから岩絵を見るツアーに申し込む形になっている。人は少ない。
受付に行くと、自分で標識に従って洞窟まで歩いて行けと。要するに洞窟にガイドが待っているので、アクセスは自分で、ということだ。深い谷沿いの道を歩く。小川のせせらぎの聞こえる気持ちのいい道だ。気温は東京の10月上旬くらいか。日が射すとそれなりに暑いが、日陰でじっとしていると肌寒い。
Giants Castleの岩絵はMain Cavesという名前で、Mainということは他にもいろいろあるのかなと思うが、見学できる所はここだけだ。着いてみると、厳重にフェンスで囲まれていて、鍵がかかっていた。サン人の岩絵はもっと自由に見られる環境にあるのかと思っていたが、少なくともDrakensbergはユネスコの世界遺産に登録されていることもあり、ガイド無しでは見られないように保護されている。いたずら書きも多かったようだ。
しばらく荷物を置いて休んでいると、岩の上に動物が。猫くらいの大きさで、ちらっと見た感じではブラジルで見たモッコみたいな感じのげっ歯類ぽい感じだった。ハイラックスにしては大きいような気がするが、ほんの一瞬だったのでよくわからず。(後に、やはりハイラックスだろうとわかる)
フェンスの内側から声をかけられた。中に常駐しているガイドがいるのか。まだ20代半ばくらいの感じのズールー人の男の子だ。
ダーバンもこのエリアも、クワズール・ナタール州に属している。クワズールとはズールー人の地という意味で、19世紀にはズールー王国があった。ズールー戦争で敗れ、英領になり、ボーア人の領土だったナタルと合わせてクワズール・ナタルとなる。
これから見る岩絵を残したサン人(ブッシュマン)はズールー人などのバントゥ系語族の民族が北から入ってくる前、南アフリカに広く分布し、おそらく万年単位で狩猟採集生活を行ってきた。
どうもこの時間は見学者は私だけだ。中に常駐しているのに、フェンスは鎖のついた鍵でその都度閉めているようだ。ここまで厳重に管理しているのも珍しい。
説明してくれるのだが、なかなか英語が聞き取れない。こちらの英語もあまり通じない。予備知識があったので、だいたい言っていることはわかったが。
ここの岩絵は5000ー6000年前だと言う。これも諸説あってよくわからないのだが。なんと、実物大のサン人の暮らしを再現したジオラマ(?)が遺跡の中にある。これは珍しい。ガイド氏はサン人は大きくても身長1.5メートルくらいでした、というのだが、人形はどうみても1メートルちょっとほどしかない。日本にも来たニカウさんはどれくらいだったか。
サン人の言葉にはクリック音など、舌をつかって音を鳴らす独特な発音があるが、ズールー人の言葉にも同じタイプのものがある。ガイド君がやってみせてくれたが、なかなか難しい。
洞窟というかシェルターだが、二つあり、最初の一つは絵がかなり不鮮明だった。エランドらしき動物の群れと人が描かれている。
かなり繊細な線でかかれている。人のポーズなども上手い。
北側のシェルターはかなり開口部が広い。ここに彼らの世界観を知る上でとても重要な絵がある。
この二つの人物像、小さな写真で見ていたときはよくわからなかったが、エランドの頭をもつシャーマン像だった。サン人にとってエランドは強い霊的な力をもった特別な動物で、シャーマンはその霊を体内に取り込むことで力を得る。二人とも複数のエランドの霊を取り込んでいる姿だという。左の人物には尻尾が二本、右は頭が三つ出ていて、体が大きくふくれあがっている。
写真を撮っていると、「そろそろ時間なんで....」と。1時間に1グループ案内しているということは、それぞれ45分とかなのだろう。それは短かすぎる。幸い私以外人がいなかったので、1時間以上いたが、ガイド氏に下から新しい客が行ったからと連絡が入った。
「もう、好きに撮っていて。終わったらそっちから帰ってね」ということになり、ありがたし。それでも時間が足りない。渓谷を望むとてもいいロケーションで、洞窟までの行き帰りの道も気持ちよかった。
帰り道、道沿いに鳥の巣がぎっしりぶら下がっている木を見る。鮮やかな黄色い鳥の巣で、中から雛の鳴き声がする。ハタオリドリの仲間だ。メキシコで細長いネット状のオロペンドロの巣は何度か見たが、こういう釣り鐘式のは初めてだ。
道にヒヒの群れが出ていた。皆、車が近づくと散って行ったが、ボスらしき大きなやつだけは腰をおろして股間をいじるなどして悠々としている。仲間に俺は車なんてさほど怖くない、というとこを見せてる感じ。
保護区を出て、さらに北のシャンペン渓谷に向かう。カーナビは太い幹線道に戻らず、細い道を行くように指示する。大丈夫かいな、かえって時間かかるのでは?と思ったが、カーナビは普通効率の良い道を選ぶものだ。これまで走った感じではそんなに悪路もなかったし....と思って、言われるままに走るが、これが途中から完全にオフロードだった。穴はそれほどあいてないが、オフロードは何かとパンクの危険性があり、気が気で無い。カーナビ通りも問題ある。
ガソリンは減っていく(スタンドなど全然ない)しで、やきもきしたが、なんとか大過なく宿についたときはもう夕暮れで、大きなリゾート施設だった。広い敷地の中にコテージやキャンプ場や遊び場などがある。人の気配の少ないGiants Castleから子どもが騒ぐ声のする全く様子の違う場所に。ここの場所は岩絵サイトからは離れているが、明後日Battle Caveという岩絵サイトに連れて行ってくれるガイドと落ち合うにはいいはずと思って予約したのたが、ドンピシャだった。
Booking.comで朝食付きで一泊8000円程度のものが出ていたので予約したのだが、きっと通常料金はもっと高いだろう。とても広い部屋だった。