セイラー

イギリスの愛すべきバンド、セイラーのファン・サイトを久しぶりに見てみたら、元リーダーのゲオルグ・カヤナスがセイラーの曲をフィーチャーした劇「Sailor --- A Musical Journey」を上演したと書いてあった。写真を見ると昔風の水夫が主人公のコメディーのようで、セイラーの曲の世界そのものといった感じか。
セイラーは73年にデビューしたバンドだ。ヘミングウェイも訪れたというパリの歴史あるカフェの専属バンドのメンバーがカフェが焼失したため離散、それぞれに世界各地を放浪した末に再会し、活動を再開、しかもリーダーのカヤナスはロシアのロマノフ王家の血をひいている、というアホなホラ話とともにデビューした。ジャケ写で初期のロキシーコックニー・レベルみたいなメイクをしていたこともあり、日本ではB級バンドというか色もの的に見られていたが、本国ではトップ10ヒットを二つも出した人気バンドだった。でも、たしかに色もの的というか、テーマが色ものだった。20世紀初頭くらいの時代設定で、陸に上がった水夫たち、夜の街、酒場、女、喧嘩といったテーマの曲が連なり、音もノスタルジックなものが多い。ちらっと聴くとあまりにベタベタに型にはまった感じがあるが、なかなか巧みで、基本的にポップなのだが、ジャズあり、ボードヴィル風ありカリビアン風あり、フォルクローレ風もありと多彩、水夫たちの酒場でのホラ話よろしく「エセ異国情緒」ただよう曲もステキだった。最初からシアトリカルなバンドだったのだ。初期の曲のほとんどを書いていたのがカヤナスだったが、この人はかなりの才人だ。絵も上手い。セイラーのトレード・マークだったのが、「ニッケルオデオン」という、アップライトピアノを二つ背中合わせに貼り合わせたような変な鍵盤楽器だったが、これはカヤナスが作ったものだ。ピアノの鍵盤を押さえると同時にそれがシンセの鍵盤を押し、さらにミニ・オルガンと鉄琴が連動して鳴るようになっていた。後にはベルや太鼓もくっついていたことがある。これをメンバー二人が向かい合って弾く形になっていたが、カヤナスがパブの二階でトンカチや接着剤で作り上げたそうだ。始めて見たメンバーは「マジでこんな変な楽器を弾かせる気かよ」と思ったという。ニッケルオデオンというのは、昔あった5セントで動く自動演奏機、ジュークボックスのようなもののことらしい。カヤナスの作ったこの楽器の音はチープながらも、えも言われぬ懐かしき情趣を醸し出すのだった。でもかなり無茶な構造になっていたので、調子が悪いと「イタチが入ったバグパイプが怒り狂った犬に襲われたような」音が出たらしい。
バンドは70年代末に解散した。メンバーのフィル・ピケットはカルチャー・クラブの「カーマは気まぐれ」などを書き、脚光を浴びた。カヤナスはDATAというバンドでエレクトロ・オペラと銘打ったアルバムなどを出している。やはりシアトリカルな演出が好きなのだろう。90年代に再結成し、オリジナル・アルバムも出したが、カヤナスが脱退、現在も残りのメンバーがセイラーとして活動している。今も同スタイルのニッケルオデオンを使っているが、中身はシンセサイザーになっていて、かつての音にちかいものをサンプリングで出しているようだ。新しいライブなどを聴くと、やはり、手作りニッケルオデオンの方が面白い音だ。
カヤナスが60年代末に在籍していたバンドEclectionの唯一作もCD化されている。裸のマネキン人形が赤い照明の下に妖しく浮かび上がる、いかにも「アングラですぜ」といういい感じのジャケットなのだが、中身はママス・アンド・パパスかな?という気もするような、ハーモニーを活かした、明るいウエストコースト風ソフト・ロックだ。なかなかよかった。
しかし、アマゾンでSailorを検索するとセイラー・ムーンのCDがドバーっと(しかもUKやドイツのアマゾンでも!)出てくるような仕組みはなんとかならないのか?


You Tubeにセイラーの昔の映像が結構入っている。以下はニッケルオデオンがはっきり見える。
http://www.youtube.com/watch?v=qY-8Bs2tWBs

その他
http://www.youtube.com/results?search_type=search_videos&search_query=sailormarinero&search_sort=relevance&search_category=0&page=1

カヤナスのオフィシャルサイト
http://www.kajanus.com/georgkajanus.html

セイラーのファン・サイト
http://www.sailor-marinero.com/

セイラーのオフィシャル・サイト
http://www.sailortheband.com/



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