70年ワイト・フェスティバルのドキュメント

70年のワイト島のフェスティバルのドキュメント映画を見てみた。主催者側とBBCによって約200時間分にもなる映像が撮られたが、長くお蔵入りになっていて、90年代半ばに初めて公開されたようだ。これがなかなか面白い映画だった。演奏シーンは半分くらいだろうか。主なアーティストの演奏がそれぞれ1曲か2曲くらい入っていて、途中でフェード・アウトしているものもある。ジム・モリソン在籍晩期のドアーズのライブが意外に良かったのが驚きだったし、ボーナスに入っていたファミリーの映像も珍しく、見所は多かったが、5日間という大掛かりなフェスティバルのミュージック・ビデオとしては、少し物足りないボリュームだった。が、この映画の面白みはむしろ60万人という過去最高の観客が集まった会場の混沌とした雰囲気、主催者たちの迷走ぶり、一部で「愛と平和」というテーマとは対極の、暴動に発展する寸前の敵意に満ちたものになっていった過程を中心テーマのひとつに据えていることだ。
5日で3ポンドというわずかなチケット代を払わ(え)ず、丘の上でタダで聞こうとしている連中を、主催者側(3人?)は犬を連れた警備員などで排除しようとするが、この行為に対する反感が徐々に増していき、次第に修復しがたい対立になっていく。最初、主催者はチケット無しで来ている連中には「ペンキ塗りでも手伝わせて、駄賃代わりにチケットをあげれば大人しくなるだろう」とたかをくくっていた。ステージに上がって、「一年以上かけて準備したんだ、一部の勝手な連中のために台無しにされてたまるか」と威勢よく言い放ったが、次第に「チケットを買ってもらえないと、アーティストにギャラが払えないんだ、わかるだろ」となり、「じゃあ、収支がトントンになるまでチケットが売れた時点でフリー・コンサートにするよ」となり、そして塀が壊され、最後は「もう赤字になることがはっきりしたけど、仕方ない。俺は借金取りに追われるだろう。でも、こんなフェスティバルを企画できてよかったよ」と涙ぐみ、何故かアメイジング・グレースを合唱して終わる。
暴れていたのは一部の人間だが、60万人という数の圧力は大変なものだろう。ステージ上のミュージシャンも緊張している。ジョニ・ミッチェルは半泣きになって「こんな雰囲気ではできない」と懇願するし、クリス・クリストファーソンはMe and My Bobby McGeeで「自由とは失うものがないということ...」と歌いつつも気もそぞろで、「こんなんじゃ、俺はライフルで撃たれちまうよ」と、曲が終わる前に逃げるようにステージを降りる。なかなか見られない光景だ。
映画は結構シニカルな視線で描かれているが、面白いのは、「若い人たちってステキ」というかなり様子のおかしい「男爵夫人」、「できることならこの国の若者を全て滅ぼしてやりたい」という元軍関係者、ロンドンに着いたとたんにブタ箱に入れられたという、元大工の陽気な風来坊バドなどの登場人物だ。一種の狂言回しの役割をはたしている。特にバドは60年代末の楽天的な雰囲気を象徴しているような人物で、粗末な簡易トイレでズボンを下ろして座っているところまで撮られているが、「いろいろあったけど、面白かったね」という雰囲気で閉じているのが、大きな救い(?)になっている。


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