スキャナの修理など

昨年末くらいからスキャナの調子が悪く、思い切って修理することにした。かなり思い切る必要のある修理代だった。仕事柄、自分で画像をスキャンして加工することが多いので、どうしても業務用のスキャナが必要だったのだが、今ではポジフィルムを受け取ることも少ない。ビックカメラの売り場でもフィルムは隅の方に追いやられている。
ほんの数年前、富士フイルムが新しいポジフィルムのプロヴィアやヴェルヴィアの改良版をリリースして、微粒子フィルムの表現力もさらに進化したのだが、あっといういまに市場はデジカメ一色になってしまった。なかなか一部のカメラマン相手に成り立つような商売ではないだろう。
四、五年前までは仕事で使う画像は、日中自然光で物撮りをして、フィルムをスキャンなどしていたが、今ではもっぱらデジタル一眼を使っている。すぐに確認できるというメリットは大きいし、ラボに持っていって、取りに行って、という手間が難しくなっている。デジタル機器は仕事に余裕をもたらすのではなく、人をどんどん追い立てていくのだ。フィルムを使っていたときは中古のペンタックスの6X7のカメラ(露出計が壊れた中古を安く買ったのだが)をよく使っていたが、今ではホコリを被っている。いいカメラで、メカとしても魅力的なのだが、なかなか使う機会がない。
スキャナは元はイスラエルのメーカーのものだった。これがリース期間終了間際に壊れ(なんというタイミングなんだ!)もう、新しく導入しても元がとれないことを承知で、仕方なく二台目をリースしたのが4年前だ。自前でスキャンした画像を使う仕事の仕方に慣れてしまっていたからだ。大げさな機械で、リース料がやっかいな負担になるのは目に見えていたのだが、これほどフィルムが急速に消えていくとは思わなかった。
件のイスラエルの企業はカナダの企業に売却され、それが近年、コダックに吸収された。サポートも継承されている。
コダックも長年にわたるフィルムメーカーとしての安定した地位はもはや望めないのだろう。デジタル関連の機器に力を入れざるをえないわけだが、デジタル機器の他企業を吸収して充実させようということなのだろうか。数年前、デジタル一眼のハイエンド機が出そろい始めた頃、コダックニコンの中級機のボディーを使って、当時解像度としてはデジタル一眼の最高スペックのカメラを出した。数字の上では、A3サイズで印刷できる解像度があり、ニコンキヤノンがB4も苦しい感じだったことを考えると突出した感があったが、ボディーはニコンの中級機だったので、なんだかバランスが悪く、値段のわりに安っぽいカメラだった。日本ではほとんど話題にならなかったし、おそらく売れなかったと思う。一年ほどで、キャノンの最高機種に凌駕されてしまった。今はどんなカメラを出してるのかと、サイトを見てみたが、その後スペックダウンしたデジタル一眼を出したりして、結局、今はレンズ交換ができるデジタル一眼は販売していないようだ。フィルムもじり貧、プロ向けカメラも撤退、となると、かなり厳しいに違いない。
「僕はニコンのカメラで写真を撮るのが大好きなんだ。白黒写真じゃ何を撮っても冴えないよ。だから、母さん、僕のコダクロームを取り上げないでよ」って、ポール・サイモンの曲にあった。硬質なモノクロームの写真が似合うS&G時代の歌から離れて、軽装で気軽にパチパチカラー写真を撮って、町のDPEに出して、ほら、色が綺麗でしょ?っていう感じだったが、コダックが前述したような状況で、ニコンもいち早くフィルムカメラの開発から撤退することを表明して随分時間が経つ。
私は自分が持っているデジタルカメラにどうも愛着がわかないのだが、(マメに充電しないと全くの無用の長物になっていまうということが、一番愛着がわかない原因だ)、カメラの使い方に関しては、全くもってデジタルカメラ向きだとも思う。だが、今使っているデジタル一眼の表現力はフィルムに及ばないと感じる。キヤノンの100万円を越えるような機種はどうなのかわからないが、自分のカメラで、同じレンズで比較すると一目瞭然なのだ。海外に遺跡写真などを撮りに行くときはどうしてもフィルムカメラも持って行くことになる。デジカメは解像力は十分でも、奥行きや立体感の再現ではまだまだ及ばないという印象がある。よく、ベテランのカメラマンが、デジタルカメラで撮った写真には空気感が無いというような発言をすることがあるが、これは少なくとも現時点では、性能の問題だと思う。どうしても平板な印象があり、そこに自分が集中した被写体の存在感が見いだしにくいのではないかと思う。
スキャナを修理したのには、もうひとつ理由がある。これまで撮ってきたポジフィルムをデータ化して保存しないと、どうにもならない感じあるのだ。仕事場は古い鉄筋の建物で、方々にヒビが入っているためか、湿気が強く、カビがどうしようもなく浸食してくる。なんとなく全体に曇っていたりする。15年以上前のポジはかなり退色している。昨年、古い写真の状態に愕然として、順番にスキャンしてきたのだが、道半ばにして機械の調子が悪くなってしまったのだ。後二千枚くらいだろうか。