「ナショナル・トレジャー2」とテンプル騎士団、キルマーティン渓谷

ナショナル・トレジャー2」を観たんだけれど、相変わらず突っ込みどころ満載だった。
そもそも、「先住民が残した遺産が」というけれど、どうしてアメリカがスペイン領であったメキシコの先住民の石造物をあんなに大規模にガメているのか。「これはオルメカの文字だわね」とか言っていたが、お宝はアステカ風あり、ボリビアのティワナク遺跡風あり、と、もうグチャグチャで、しかも、ひとつの祭壇には漢字が彫られているじゃあないか!
以前にも紹介したが、中国人の「研究家」で、オルメカなどのメキシコの古代文明はそもそも殷王朝の末裔が開いたもので、オルメカの古い文字など、甲骨文字として読めると主張しているトンデモな人がいる。この説を受けて入れてみたのかしら。
そもそも、このシリーズでは、フリーメーソンの財宝が、そもそもテンプル騎士団によって秘匿されてきたものだという話になっているが、この、メーソンはテンプル騎士団と連続性があるという観点からアメリカ建国の背景を書いたのが、「ダヴィンチ・コード」の元ネタになった本を書いたマイケル・ペイジェントとリチャード・リーの二人だ。この二人で死海文書の本など、所謂「ヨーロッパの秘匿されてきた歴史」に関して、ヒットを出してきたが、たまたま以前この二人のテンプル騎士団とメーソンの関連について書いた本の仕事に、本業の装丁で関わった。
ペイジェントとリチャード・リーは「ダヴィンチ・コード」はアイデアの盗用だといって、訴訟を起こしている。ここ数年、なにかと彼らの著作とからむテーマの映画がつくられているわけだ。
ゲラ刷りを読んで関心をもったのは、スコットランド西部にあるKilmartin渓谷の教会に残る騎士の墓石の話だった。この渓谷はポール・マッカートニーの歌で有名なキンタイア半島の北にあるのだが、石器時代から鉄器時代まで、実に多くの遺跡が密集していることで知られる。



私も巨石探訪旅行で訪れたのだが、たまたま撮影していたKilmartin教会の墓石について、テンプル騎士団とメーソンの関連を示す重要な証拠として言及していたのだった。
この教会の裏にある墓地には古い墓石が数多く残っていて、剣を彫り抜いた騎士の墓も多いのだが、無銘の、剣だけが彫られたものがいくつかあり、さらにL字型の定規のような形の彫り物を添えたものもある。定規はメーソンのシンボルのひとつなので、これをして、テンプル騎士団のものであり、メーソンとの関連が明確に見てとれるという論旨なのだ。「この墓石は怪しい!」という、直感的な話で、傍証などがあるわけでもない感じではあったが...。なかなか面白かった。

この渓谷は独特な雰囲気のある場所で、とても印象深かった。
石器時代、初期青銅器時代の巨石も多いが、鉄器時代にはアイルランド北部から移住してきたスコット族のダルリアダ王国の中心地だった場所だ。数千年の間に作られた遺跡が密集していて、地元のビジターセンターでは、「この谷は幽霊でいっぱいだ」というヴィデオを上映していた。アイルランド経由でキリスト教が移入された場所でもあるので、スコットランドの歴史にとっていろいろな意味で重要な場所だといえる。
鉄器時代の自然の岩山を利用した要塞Dunadd Hillの頂上の岩盤にはひとつの足形がくっきりと彫られている。おそらく即位や政治的儀礼に使われたものだと考えられているが、同じ岩には、スコットランドの先住民だったピクト人のシンボルであるイノシシの絵も彫られていて、戦乱を繰り返していたピクトとスコット族が何らかの政治的合意を得た、あるいは協定を結んだという痕跡ではないかとも言われている。
家族で訪れたときは娘が3歳だったが、足型に自分の足をあてはめてみた私を見て、娘は私がつけた足型だと勘違いし、「自分もやるやる」と岩を踏みつけ、どうやれば岩に足型ができるのか教えて、と騒いでいたのを懐かしく思い出す。

それにしても、「ナショナル・トレジャー」はお宝を「アメリカ国民の貴重な財産」として披露するんだが、先住民の姿は一切出てこないし、そもそもメキシコのものなんだから、「アメリカの」ではないだろう。

ニコラス・ケイジはどうみてもラテン系の顔で、「アメリカ建国」にかかわった家の末裔には見えない。競演のエド・ハリスは典型的な「島嶼ケルト系」の顔で、アイリッシュ系としての役が多いのだが、Wikipediaには、家系は長老派とある。もしかして、スコットランド系なのかもしれない。だとすると、これはそれなりに考えられたキャスティングなのか?

Harrisはよくある名前で、スコットランドのアウター・ヘブリデスの地名でもあるが、どうもイングランドの南西部、ウェールズに多いらしい。このHarris姓がもともとどこから来たのか、Wikipediaに面白い記事があった。
http://en.wikipedia.org/wiki/HARRIS_Surname_DNA_Project
名の元はフランスから来たのではないかと。