チュニジア旅行-4

サハラのオアシス都市トズールは想像以上に大きな町だった。国際空港もある。ナツメヤシ栽培が主産業だが、煉瓦造りにも伝統がある。独特な幾何学模様を作り出す積み上げ方で、メディナの壁も美しい。

舗装道路を外れて、四輪駆動車で砂漠をしばらく走ると、スターウォーズのロケが行われたオング・エル・ジュメルに至る。当初の予定では午後訪れることになっていたが、午後は50度近くまで気温が上がるため、運転手のKhaldiの判断で朝出発することになった。
途中、小さな露店がありラクダの骨を陳列していた。売り物でもないと思うが。斜面を登って土手の上から見ると、視界には我々が乗ってきた車とぼろい露店と、あとは砂地ばかり。距離感もスケール感もおかしくなってしまうような単調さだ。
 

スターウォーズのロケ地というから、どこかの町を撮影に使ったのかと思いきや、砂丘の中の窪地にセットを作ったもので、そのセットが丸ごと残っているのだった。スターウォーズはあまり関心がなかったので、どの話に使われたのかなど、全く知らなかったが、帰国後確認したところ、物語の最初、アナキン・スカイウォーカーの少年時代の町のシーンだった。結構ちゃちいのだが、砂漠の真ん中におかしな家並みがあるのも、不思議な風景だ。
近くに浸食された岩が連なっている場所があった。おそらく遙か昔はこの辺も岩山が連なる山地か渓谷だったのではないだろうか。雨風に削られて、小さくなっているが、その時代のかすかな記憶を残すようにして立っている。これらの岩がすべて砂に変わるには、あとどれくらいの時間が必要なのか。
 
 

帰り道、道端で何か動物を抱えて手を振っている子どもがいた。砂漠に住む耳の長い狐だ。砂漠にはオオカミもいるらしい。何を食べているのだろう。
写真を撮らせてて1ディナールの仕事だが、炎天下、砂漠にずっと立って車を待っているだけでも大変だ。
しばらくすると、もう一人、別の子どもが狐をかざして手を振っていた。

トズールは西側のアルジェリアの国境にほど近い町だが、国境地域はアトラス山地だ。アトラス山脈はずっと西のモロッコまで連なる大山脈で、高いところでは雪も降る。雪解け水は春になるとどっと低地に流れ出していく。
アトラス山麓にリンの産地がある。輸送に鉄道が敷かれているが、オスマン・トルコ時代に作られた豪華な列車が、今では観光用の列車「レザー・ルージュ(赤いトカゲ)」として、長年、川に浸食されて出来た深い渓谷を走る。なかなかの絶景だ。車両にはにはかつての一等、二等、三等とみられる等級があり、食堂車もあるが、満員で連結部分にも人が立っていたので、車中を移動するは難しかった。年季の入った、趣のある列車だった。隣に座ったアーミー・ルックのフランス人は傷害のある人のようで、ずっとずっと小さな兵隊の人形に話しかけているが、嫁がくしゃみをするたびに「神のご加護を(フランス語はわからないが、おそらく)」と言うのだった。
途中、絶壁の間を縫う干上がった川に降りる。石ころを拾うと、どこかで見たような石だ。「フリントじゃないの?」と、娘。確かに、イングランド南西部で巨石を見て歩いたとき、イヤというほど拾ったフリントで、ゴロゴロしている。とたんに我が家特有の石拾い熱にスイッチが入る娘に男の子が片言の英語で、「火をおこす石」だと。ここでもフリントは火打ち石だったようだ。
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列車は途中狭いトンネルを何度もくぐる。窓枠のプレートには、「窓から頭を出さないように」と、フランス語、アラビア語、英語で注意書きが彫られていた。

トズールは運転手のKhaldiの故郷だ。僕の母親は料理が上手なんだ。昼ご飯を食べにこないか、というので、お邪魔することにした。
チュニジア料理は味付けも優しく、おいしい。春巻きの皮のようなものに卵や野菜などを詰めて揚げたブリックとクスクス(小麦粉を小さな粒にしたもの)をいただいた。定番の料理だ。確かに、ホテルやレストランで食べたものよりずっとおいしかった。クスクスにはラクダの肉がのっていたが、味は羊肉に似ている。おいしいのだが、いかんせん量が多い。これを残さず食べるのは大変なことだな、と困っていると、Khaldiもたくさん残しているので、「すごくおいしいんだけど、食べきれなくてごめんなさい」というと、「君たちが胃が小さいのはよくわかっているから気にしなくていい。僕らもそんなにたくさんは食べない」と。本当に日本人は小食、いや、欧米人てのはどうしてあんなにたくさん食べるのか。我々は前菜とパンだけでお腹がふくれてしまう。あまり食欲がないからパスタでも単品で頼もう、などと考えて注文すると、日本の基準で2人前以上の量が出てくるからおそろしい。