マルタ旅行-1

マルタ共和国はマルタ、ゴゾの二つの島からなる小さな国で、総面積は淡路島よりも小さい。
マルタには、おそらく世界最古といっていい巨石建造物が数多く残っている。紀元前3500年頃から栄えた文明は、この二つの島特有の、周囲の土地に類似したものは全く見いだせない独特な巨石神殿を残して、約1000年間栄え、ぷっつりと姿を消している。
紀元前3500年というのは、エジプトにピラミッド建造が始まる遙か前、ストーンヘンジに巨石が持ち込まれる約1000年も前だ。しかも、非常に高度な建築技術を用い、美術的な表現にも洗練がみられる。
訪れた主目的はこれらの建造物の写真を撮ることだったが、旅行のスケジュールを全て組んで、宿の手配なども完了した後で、国内の歴史遺産を管理するHeritage Maltaのホームページで、代表的な二つの遺跡が修復のために閉鎖されているという告知を見つけて、愕然とした。あわてて、「本当に公開されていないのか」問い合わせをしたところ、「多分、そのときは開けていると思う。けど、来てから確認してください」という、なんとも曖昧な返事で、やきもきしつつ向かった。
幸い、公開はされていたが、修復工事の途中だったようで、立ち入りできない部分があった。非常に古い遺跡であるということと、石灰岩をくみ上げたもので、海風によって風化が激しいため、崩壊の危機にさらされているものが多いのだ。
ハジャール・イーム、イムナイドラの二つの遺跡は、島の南西、海岸にほど近い場所にある。
ハジャール・イームは、マルタの巨石建造物の中でも、最も大きな石材を使用している遺跡だ。重さが20トン近くもある巨大な石柱が並ぶ、ダイナミックな建造物だ。楕円形の部屋を複数つないだ施設の周囲をぐるりと高い外壁で取り囲む形になっている。

最も大きな岩を並べた南面は、浜から吹き付ける風=シロッコによって削られ、ぼろぼろになっているが、元はきっちりと四角く形成された巨大な岩が隙間無く並んでいたとみられている。

内部にはかつての建築技術の水準の高さを伺わせる、精緻な石組みが残っており、渦巻き模様をあしらったものもある。
 

大きな石材をゲート状に三つ組み上げた部分がストーンヘンジの三石塔を思わせる為、かつて両者の関連性を考える向きもあったようだが、ストーンヘンジで使用されているような、石組みにほぞ穴と突起を使用する技術は使われていないし、遺跡全体の様子から、全く異質なものであることがわかる。
楕円形の各部屋は、岩をくりぬいた穴の通路によってつながっている。この島の巨石建造物の特徴だ。


このハジャール・イームのすぐ近く、絶壁の海岸線沿いに残るイムナイドラ遺跡は、マルタの遺跡の中でも最も優美なものとされているが、2001年に、何者かによる破壊にあっている。5000年も間立ち続けていた60以上の巨石を倒し、砕くという、大規模な破壊だ。岩肌にルーン文字のようなものが彫られていたらしく、おそらく古代文明に何らかの独善的な解釈をもっている狂信的なカルト集団によるものとみられている。
巨石文明は宇宙人が作ったのでは?、くらいのデニケン的な話程度だった頃はまだ無邪気なものだったが、最近は独特な選良意識をもって、特定の遺産に敵対心をもつような、頭が悪くて暴力的なカルトが多くて困る。これにマルタの政府が大変な危機感を持ち、遺跡の周囲は高いフェンスで囲まれていて、非常に雰囲気が悪くなっている。おそらく、イギリスのエイヴベリーなども遠からず、管理が厳しくなるに違いない。石を倒す、石におかしなペイントをする、といった破壊活動が増えているからだ。
イムナイドラは、ハジャール・イームよりも、石組みが綺麗に残っている。不定形の石材を精緻にくみ上げた部分には、どこかインカの石組みを想起させるものがある。





この二つの遺跡のすぐ近くに、ブルー・グロット=「青の洞門」がある。マルタの海の色は独特は深みのある青い色で、これが浅瀬になると目の覚めるようなコバルト・ブルー、エメラルド・グリーンになる。ブルー・グロットに行く人には、午前中、できれば10時くらいに行くことをおすすめする。午後になると、陽光が洞窟の中まで入らないからだ。