マルタ旅行-2

マルタの遺跡の中で、最も複雑な構造を持ち、彫刻や装飾にも最も見所が多いのが、タルシーン神殿だ。
が、現在見学できる遺跡の中の多くの部分が復元されたもののようで、どこまでがオリジナルなのかよくわからいところがある。

大きな石を組み上げた門をくぐると、すぐ右手にユニークな人物彫像の下半身が見える。マルタの遺跡からは多くの太った人物像が出土している。はっきりと女性とわかる人物像もあるが、全身がムチムチしているわりに乳房がはっきりしないものが多いので、性別は不明とされている。神像なのか、権力者の像なのかなど、確定できるようなものはないのだが、腰の太さからして、おそらく地母神のようなものではないかというのが、大方の解釈のようだ。
タルシーン遺跡から発見されたものは、最も大きなものだが、上半身は出てこなかったようだ。遺跡に展示されているものはレプリカで、本物は首都ヴァレッタの博物館にあるが、大きく割れている。おそらく、発見後、何らかの事情で壊れてしまい、修復ができなかったのだろう。

タルシーンには螺旋模様や動物をかたどったレリーフが数多く残っている(以下の写真で、太陽光の下で撮られたものはレプリカ、室内で撮られたものが実物)。最後の写真は遺跡全体の模型だが、マルタの遺跡はほぼ、こうした楕円形の部屋を連結した構造になっている。遺跡の入り口から部屋の中心を貫く軸はほとんどが南南東から南南西の間に向いていて、太陽や月が最も南から昇る、あるいは沈む方向に合わせてあるのではないかとも言われているが、正確な観測に基づく記述はまだ見ていない。唯一、イムナイドラのひとつの入り口だけが、真東を向いていて、春分秋分の朝日が入り口の中心から昇ることが観測されている。








マルタの遺跡から出土する、太った人物像のほとんどは、首の無い胴体だけのものだ。手のひらに乗るような小さなものが多いが、ちょうど、このサイズの頭部だけのものも見つかっている。また、胴体だけの人物像のいくつかには、ちょうど首の付け根にあたる部分に穴が開いているものがある。
古代遺跡にまつわる俗説的「謎」にきわめてロジカルに次々に切り込んだ名作『古代文明の謎はどこまで解けたか』では、胴体の上に頭部を乗せ、それに糸をつないで、穴から通し、後ろで糸を引いて首を前後に揺らすことで、一種の託宣を行う仕掛けだったのではないかという解釈がされていた。薄暗い神殿の中に招き入れられて神に伺いをたてる者に、あたかも神が返事をしたかのように首を振ってみせるからくりで、神官など一部の特権階級が民衆を欺くために作られたペテンだという主張なのだが、どうだろうか。

古代文明の謎はどこまで解けたか〈1〉失われた世界と驚異の建築物・篇 (Skeptic library (07))

古代文明の謎はどこまで解けたか〈1〉失われた世界と驚異の建築物・篇 (Skeptic library (07))

このシリーズの著者の、考古学につきまとう憶測や意図的な解釈に対する懐疑的視線は鋭いのだが、宗教なんて、結局民衆を騙すペテンに過ぎないという態度だけでは、この小さな島に20以上もの大規模な神殿を築き続けた情念を説明しきれるとも思えない。仮にこれらの人形が、彼らの世界観のなかで何かしらの役割を演じるものとして作られたとしても、「演出する者」は「演出させている者」とともにしか生まれないはずだと思うのだが。