マルタ旅行-4

マルタの魚船はルッツと呼ばれる、青、黄、赤、緑とカラフルな塗装を施したものが多い。舳先には独特な目のレリーフがついているが、これは遙かフェニキアに起源があるともいわれる、魔除けなのだそうだ。
いくつかの船には舳先に人魚などの素朴な絵が書いてあり、これもなかなか趣がある。



マルタ島から北のゴゾ島に渡る。ゴゾはマルタよりも小さく、人口は3万にも満たない。
ゴゾ島にも石器時代の遺跡がある。中でもジガンティーヤ=Ggantijaは最も規模の大きな、見事な神殿だが、これも補修、あるいは補強工事中で、鉄パイプに覆われていた。様式はマルタの神殿群と同様だ。ジガンティーヤとは、女巨人の塔という意味だが、ブリテン島の巨石と同様、巨人伝説がある。






巨石神殿群を数多く残した人々は元々、シチリアから来たと考えられている。農耕民だったようだが、故郷のシチリアにも、あるいは周辺の他の土地にも例をみない文化を生み、紀元前2500年頃に何らかの理由で社会的崩壊に至ったとみられている。現在のマルタは石灰岩に覆われた、土地の痩せた島だが、かつては多くの樹木に覆われていたものが、巨石神殿建造のために環境破壊が進み、島を放棄せざるをえなかったという説と、マルタは当時から現在と同じような自然環境だったという説とあるようだ。花粉などの地質調査をすればわかることなのではないかと思うが、博物館のパンフレットを見ても、確定的なことは書いてない。下はジガンティーヤ遺跡の模型と、ゴゾの遺跡から出土した遺品。




巨石神殿の時代が終わった後、同じ人々によるものなのか、新たに島にやってきた人々によるものなのかわからないようだが、ドルメンと、カートラッツと呼ばれる用途不明の不思議な石の轍を残した文化がある。巨石神殿と比べて、ドルメンはあまりに素朴で、地元の人たちもほとんど意に介していない。
下は島の南岸、タ.チェンチに残るカート・ラッツとドルメン、島にはドルメンとみられるものが多数あるが、このドルメンが一番形が良いようだ。


巨石神殿とストーンヘンジが似ている、関連性があるという主張には、どこかブリテン島の文化は地中海文明とつながっていてほしいという願望がこめられているように思われる。
ブリテン島はフェニキア人によって拓かれた、あるいはトロイア人の末裔が巨人を倒して住んだ、というような中世末期の歴史物語から始まって、キリストが商船に乗って訪れたことがある、聖杯やキリストを突いたロンギヌスの槍ブリテン島にもたらされたと考え、これらを探そうとした人たち、ノアの箱船ブリテン島に流れ着いたのではないかと考えた「箱船派」、ブリテン島にこそ真のエルサレムよあれかしと謳った人たちの中に、地中海文化に対する複雑なコンプレックスの脈々たる流れが見てとれるが、壮麗な巨石神殿ではなく、むしろ巨石神殿の文化が潰えた後に造られた、素朴なドルメンに、ブリテン島の巨石文化との類似性が感じられる。マルタの乾いた石灰岩の岩肌が累々と連なる荒涼とした風景の中にドルメンが立っている姿は、どこかダービーシャーのピーク地方の風景やアイルランドのバレン高原を思い起こさせるのだ。だが、この類似性はブリテン島とマルタに限ったものではなく、具体的な歴史的関連性を強く示唆するようなものはみつかっていない。ゴゾ島にはXaghra Circle(マルタ語でイチクシャハーラ)と呼ばれる、地下遺跡があるが(残念ながら公開されていない)、この遺跡は岩を円形状に並べたストーンサークールによって取り巻かれている。これについても、ブリテン島のストーンサークルとの関連性をあれこれ推察する向きがあるようだが、これも、むしろ、世界各地の石器人の心のありようの類似性として考えるべきではないだろうか。

ゴゾの中心都市ヴィクトリアもまた、城塞都市だ。市内は歴史遺産として保存されていて、住んでいる人は少ないように見えたが、とても雰囲気のあるビストロを経営している女性はスコットランド人だという。若い頃にゴゾを訪れ、すっかり好きになってしまい、そのまま住んでいるのだと。




ヴィクトリアのカテドラルは18世紀に建てられたものだが、天井に面白いだまし絵が書いてある。あたかも下から見上げると、大きなドームがあるかのように見える。資金難でドームが作れなくなったため、苦肉の策として、描かれたものらしい。下手から見上げると、極端な遠近法で描かれた円形の確かに天井の一部が高く伸びているように見えるが、反対の壇上からは、消失点がずれていて、おかしな具合に見える。

修復中の遺跡、立ち入り禁止の遺跡が多く、遺跡撮影は少々残念な結果に終わったが、マルタの海は美しく、久しぶりにスキン・ダイビングを楽しんだ。
去年コスタリカの海で、入ったとたんに足ひれを無くした娘も、今年はゆっくりと潜り方をおぼえられた。マルタは洞窟が多く、地形が変化に富んでいるので、スキューバで潜るスポットも多いが、シュノーケリングでも十分海の美しさを堪能できる。ゴゾ島とマルタ島の間にある無人島コミノの入り江、ブルー・ラグーンは観光客でいっぱいだ。

ゴゾ島のブルーホールという縦穴は、10メートル近く潜ると、外海に出るトンネルがあり、ダイバーが次々と入っていく。