「石の卵」は、半分がセプタリアン・ノジュール(亀甲石)、半分がサンダーエッグの紹介になっている。
そもそも石の模様に興味を持つきっかけになったのが、フランスの哲学者ロジェ・カイヨワの『石が書く』という写真満載の本だった。「石が書く」とは、石「自ら」による作品、というようなニュアンスだ。瑪瑙、ジャスパーとともに、セプタリアン・ノジュールに多くの頁が割かれていた。
60年代に出された本なので、今見ると印刷もあまく、コレクション、写真集として見るともっとグレードの高いものは沢山あるのだが、「石の模様の文化史」を深く掘り下げ、石の模様を一種の抽象芸術作品として「論評」するというユニークな方法をとった本は他にないと思う。

その彼のコレクションが常設か特別展かはわからないが、フランスの自然史博物館で展示されているらしく、写真は小さくてあまり質も良くないが、ウェブ上で見ることができることを最近知った。
http://www.mnhn.fr/mnhn/mineralogie/caillois/index.htm

『石が書く』に載っていなかったものも多々あって興味深い。彼は多角形の瑪瑙、ポリヘドロイドも好きだったようだ。
『石が書く』は古本で1万円近くするようだが、写真のクオリティーだけ求めるのであれば、英語版 The Writing of Stonesの方が、ずっと良い。判型も大きく、後年、オリジナルのポジフィルムから製版し直したもので、日本語版に載っていなかった写真も入っている。

カイヨワが好きだった石にユタ州・フェアフィールド・クレイキャニオンのVariscite、ヴァリッシャー石がある。『石が書く』に掲載されているのは1級品の標本だ。小さいがウェブでも紹介されている。
http://www.mnhn.fr/mnhn/mineralogie/caillois/legendes/cadrelegende188-62.html

この有機的な姿にすっかりひき込まれてしまい、当時働いていた出版社で担当していた『アンリ・ベルクソン』という本の装幀に模様の一部を使った。パソコンなど無い時代なので、モノクロ・コピーをとったものを貼り合わせて版下を作り、3色で刷った。
クレイ・キャニオンのヴァリッシャー石は本当に面白いのだが、ずっと採掘が禁止されているため、大変高価で、大きな標本はなかなか手が出ない。
これは私が持っている、ごく薄いスライスだ。

石が書く (叢書 創造の小径)

石が書く (叢書 創造の小径)