全て入稿

『不思議で美しい石の図鑑』の本文を全て手放した。年の終わりとともに、本当に精根尽き果てたが、5年前の前作『巨石』の時に比べて、精根が尽き果てるのが早いこと....。半分のボリューム、文章は数分の一なのに。今年は思いがけないことが続き、全く予定通り進められなかったこともあるが、これはもう年齢の問題なのか?

歳の問題もあるだろうけど、「図鑑」として作ることが版元との話し合いで決まった後、悩みが深かった。何をどう載せるべきか、どういう配列にすべきか、本当に迷った。前作はテーマが全く異なるので比較できない面もあるが、何を載せるべきかははっきりしていた。あとはひたすら調べ、書く、という作業だったが、今回は入り口が難しかった。あまり得意でない分野にも入らざるを得なかったが、時間的な余裕を与えてもらえたことで、構成に関してはかなり納得できるものになったと思う。
最も未知の分野だったのは、隕石だ。隕石のなんたるかはそれなりにわかっていたつもりだが、実物の扱いについて良くわかっていなかった。
鉄隕石の独特な結晶構造も紹介したいと、昔買って持っていたスライスを久しぶりに取り出したら、まぁ見事に赤錆だらけになっている。錆を落としたら、模様も消えてしまった。アリゾナの隕石屋のおばさんに聞くと、「あんた、削っちゃダメでしょ、削っちゃ」と。しかるべき薬品処理をしないといけないのだ。隕石のスライスに、「エッチド」と書いてあることが初めて腑に落ちた。隕石好きの方なら当然知っていることなのだが、こちらは石英関係のものばかり扱ってきたので、ともかく、切って、削って、磨いて、ということしか頭になかった。いろいろ教えてもらって、新たに面白いものを入手した。さすがに鉄の中にコランダムの結晶が散っているパラサイト隕石は目玉が飛び出るほど高いので止めたが。
隕石屋さんたちはまさに「宝探し」だ。隕石は埋蔵物でもないし、ナメゴンじゃないが、宇宙から来た「落とし物」だから、拾った者勝ちなのに違いない。落ちていた土地の地主との関係がどうなるかわからないが、もし、ひとかかえもあるような、コランダムの結晶がちりばめられた隕石の塊を手に入れたら、おそらく10年くらいはぼんやりしていられるに違いない。
今回、有名なバリンジャー・クレーターを作った鉄隕石の断面も紹介したが、このクレーターは大きな鉄隕石が作ったものだと、最初に目をつけ、地下に膨大な鉄があると考えて採掘をした人は身上を潰してしまった。掘れども掘れども地下からはほとんど出てこなかったのだ。衝突した際に、バラバラに砕けて付近に散乱した破片が今でもみつかるのだから、凄い破壊力だ。
購入した切片も、放っておけば、湿気の多い日本ではあっという間に錆ついてしまう。アリゾナの隕石屋さんは「アフターケア」を約束してくれたが、鉄は重いので、送料も大変だ。錆びないようにするにはクレ556か?と思っていたら、隕石屋さんのマニュアルに「オートマ車用のミッションオイルで定期的に拭くように」とある。これは、オートマ車用でないといけないのか?



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