内在光

拙著『不思議で美しい石の図鑑』の読者レビューで、「片頭痛の時に見える模様に似た模様の石がある」と書いている方がいた。私は経験したことがないが、これはよくあることらしい。
目をつむってまぶたを押さえていると、目の中(?)にちょっとサイケデリックなさまざまな模様と色彩が現れる。目が痛くなってくるので長くは続けられないが、私は子供の頃これが好きだった。続けていると一瞬、模様が何か具象的なものに似たものに見えることもあり、はっとしたり、怖くなったりした覚えがある。

こうしたものも、片頭痛の時に見えるものも、「内在光」と呼ばれるようだ。この、網膜に写っている世界と全く違った仕組みで現れる光と模様・色彩が、原始美術と深い関わりがあるということを、港千尋の著作で初めて知った。岩絵などに頻繁に表れる格子模様、ジグザク模様、波形などは、この内在光を写しとろうとしたものではないかと。
薬物による体験でも同様のことがあるため、シャーマン的な存在などがストーン状態で「観た」ものが、ある種の特別なサインとして受け止められたという可能性があるという話は説得力があるように思う。
つむったまぶたの内側で展開される映像と、洞窟の内奥で描かれる図形には親和性が感じられる。
アイルランドの墳丘ニューグレンジの内部の天上絵、スコットランドの石に刻まれたさまざまな模様などは、今、天体との関連で論じられることが多いが、漆黒の空に現れる様々な光と、私たち自身の中の暗闇の中に浮かび上がる光とを関連づけるということは自然なことかもしれない。
天体が年の巡りの節目に見せる現象を、ニューグレンジなどの施設が演出していることは、今考古学者たちの多くが認めるところだ。農耕が本格化するにしたがって季節の節目を知ることが重要であったというのが大方の見方だが、暗闇の中に外からの光が入る瞬間は、内なる光との出会いの時であったという神秘的な解釈も可能なのかなという気もする。

洞窟へ―心とイメージのアルケオロジー

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