ペルー・ボリビア旅行五日目

今朝は意外にもペドロが朝五時半ちょうどにやってきた。「どう?来たでしょ?」という態度だったが、妙に機嫌が良かった。もう一人のドライバーと一緒に来て、自分は少しゆっくり休めたのだそうだ。
ジェニー(仮・30過ぎくらいの女性)は風邪気味らしく後ろの席でずっと寝ているが、どうもだんだんペドロの彼女らしいということがわかってきた。後ろからパンやトウモロコシなどを口に入れてあげたりしている。
ともあれ、朝から雨で寒かったが、オリャンタイタンボからそれほど遠くないマラスの塩田を見に行く。
塩分の非常に濃いぬるい温泉をひいて、山の斜面を利用してまわしている、インカ時代からある塩田だ。
白い棚田を期待していたが、雨期は休みで、周囲の泥水が流れ込んでいる。だが、なかなか面白い景色だ。

次に近くのモレイのインカ時代の円形の棚田を見に行く。すり鉢状に段々畑が作られていて、いくつも連なっているのだが、離れた所から仕入れた種などの適性を調べるために使っていたのではないかとも言われている。改良を重ねて現在のジャガイモを多種作った人たちだからして、ありえることだと思う。今、世界中で料理の付け合わせなどにジャガイモが食べられていることを考えると、世界の食に大変な影響を与えているのだ。

雨に濡れて冷えきってしまったので、市場に行ってコーヒーを飲む。約100円でパンが付き、おかわりできる。こちらのコーヒーは濃縮したエキスを入れてお湯で薄めるというのがよくあるパターンだ。多分、フリーズドライをとかしたものだろう。
市場は面白い。特に肉屋はワイルドだ。ブタの頭というのは沖縄などでもよく見るが、牛の頭を角がついたままというのは初めてみた。見たことないほど巨大なパパイヤも売っている。




この後、クスコの西、約150キロくらいにあるアバンカイという町の近くのサイウィテSaywiteに向かう。地図で見ると距離は180キロほどだが、ヘアピンカーブの山道などがあり、片道5時間かかると言われていた。標高も二千メートル以上一気に下がるので、気温もぐんぐん上っていくし、植生もみるみる変わっていく。マンゴー、パパイヤ、バナナなどのトロピカルフルーツ農園が増え、道路際でたくさん売っている。完熟したマンゴーを半分凍らせてカップ一杯に入れたものが約15円とは! 

途中岩がごろごろ落ちてくる所などを越え、(といってもきちんとした大きな舗装道路なのだが)ペドロが飛ばしたので、4時間弱でサイウィテに到着した。サイウィテの石は小規模な建造物とともにあった。大きな石塊に彫刻を施したもので、猫科の動物と都市が渾然一体となって(動物の上に人間の世界が乗っていると説明しているものもある)、間に彫られた溝に水を流すと全体に行き渡るようになっているらしい。大きさがわかりやすいようにペドロに立ってもらった。こんな面白いものは滅多にないと思う。本当にインカのものなんだろうか。インカの遺跡に具象的な彫刻などは無いので、随分と趣が違うのだが。




サイウィテに着いたときは天気も快晴だったし、大いに満足して帰路につくが、ところで、向かう途中たびたびペドロとジェニーが「サイウィテはどこですかぁ、マチュピチュの近くですかぁ、なんちゃって」とか言って笑っているので、なんだかあやしいなとは思っていたが、やはり来るのは初めてだったようだ。私がスペイン語が話せないからといって何もわからないと思ったら大間違いなのだ。
「もちろん知っていますよ、行ったことありますよ。問題ないですよ」とか言ってたけど、適当だな。彼は自分も初めてなので写真をパチパチ撮っていたが、私に石の横に立つように促して撮ると、ジェニーが機嫌悪くなり「私も撮ってよ」と。「これはそういうことじゃないでしょ、仕事よ、仕事だから」とか言うペドロに「撮ってくれてもいいじゃないの!」と言いつつ、遺跡の中庭でペドロを追いかけるジェニーとヘラヘラしつつ逃げるペドロ...。なにしてんだ。

昼ご飯はどうしようかとなって、実に簡素な道路際の店を覗くとなにか黒いものを鍋で煮詰めている。豚肉だそうだが、食べてみるとほぼ全部脂身だ。土ぼこりがもうもうと立つ道路際でやっているので、これはちょっと、ということになって大きな町まで戻ることにした。

町で食堂に入って、ペドロは「これがさっきの店で売っていた豚肉料理のちゃんとしたやつよ。これは本当に美味しい料理よ」といいつつ注文したが、食べ始めるとすぐに表情が曇り「ダメ、これ。骨が多いし食べられない。ポテトもついてないし」と言って、私とジェニーが食べていた鳥肉料理をさらに注文。
インカ・コーラを飲む。何で出来ているのかよくわからないが、人気のジュースだ。コーラからガラナを抜いて、バニラのような香りの何かを入れている。

お勘定の段になると、ペドロが店と何かもめている。高すぎるということらしい。4人分頼んで、コーラとお茶で1800円くらいだった。値段を聞くと、ジェニーが厨房に入っていき猛然と抗議するが、聞き入れられず。それになんとなくジェニーの分は私が払うことになった。もうどうでもいいのだが......。

後は帰るだけか、と思ったが、途中に温泉があるけど、見ますか?ということなった。「見たいです」というと、「ちょっと入る?」という。「海パンもってないから」というと、「貸してくれますよ」というので、じゃあ、ということになり川沿いの温泉に。温水プール程度の温度だったが、気持ちよかった。ジェニーはといえば、しっかり水着持参じゃないか、これも完全に小旅行的に企画されていたに違いないのだ。
お湯は澄んでいて、ほとんど匂いも味もない単純泉だった。しばし漬かって、そろそろ上がろうかというと、「え?もう?」と不機嫌になるジェニー。なんだか今日のツアーの全体がよくわからなくなってきた。

風呂から上がってクスコへ戻る車中、うとうとしている私の横で、キスしたり笑ったり楽しそうな二人。何が「もう一人運転手連れてきました」だ。「女の人は大変ですよ、どうして女の人の要求をいろいろ聞かなくちゃならないですか」とか言っていたんじゃなかったか、ペドロ。でも、ジェニーの様子を見ていると、ちょっと面倒くさそうな感じがわからなくもなかったが。