ペルー・ボリビア旅行12日目

北部沿岸最大の都市トルヒーヨは主に3世紀頃から9世紀頃まで栄えたモチェ文化の中心地だった。町のロータリーにも大きなモチェの顔つき土器のモニュメントが立っている。さらに後にはチムー王国の都ともなり、両方の遺跡が複数ある。

結局ペドロからも彼のボスからも連絡無し。昨日空港から乗ったタクシーの運ちゃんが「俺なら1日●●ソルで回ってやるぞ」といった金額が随分安めだったので、電話して頼むことにした。この町から頑張ればもっと北のシパン文化の遺跡まで行って帰ってこれるとペドロが言っていたのでそのつもりだったのだが、もう疲れてきたので、どうでもよくなってしまった。
運ちゃんはアンヘル=エンジェルという名前だが、似ても似つかない太くて黒いおっさんだ。でもツンツンしてる女性ガイドより気楽でいい。英語はほとんど通じないが。

先ず、モチェ文化の「月の神殿・太陽の神殿」へ向かう。沿岸地域は高地よりも早く文明が発達したが、岩があまりないので、日干し煉瓦を積み上げて建造物を造っている。これが数百、あるいは数千年という時間の中で表面が溶けて、こんもりした土の山のようになっている。未発掘の遺跡も多く、年代も次々に古いものが見つかっている。

ほとんど未発掘の「太陽の神殿」

月の神殿はセロ・ブランコ=白い山のすそ野に作られた宗教施設で、彩色された壁面装飾がすごい。100年ごとに古い神殿が人為的に埋められ、上に新しく神殿が築かれたため、下層部分の造形と彩色がとてもいい状態で残っている。最終的に5層構造だったらしい。ずっと石積みの遺跡ばかり見てきたので、随分と趣が違って新鮮だ。





太陽の神殿は未発掘なので外から眺めるだけになっている。月と太陽の両方の神殿の間には陶器や金属細工などの工芸を専門とする人たちが住んでいたらしい。モチェは工芸に力を入れていた文化で、ありとあらゆる場面が陶器などの形、絵に残されている。生贄を選ぶための戦士同士の対決、生贄にされる人の姿、生贄のプロセス、動植物、病気の人の姿、セックスの様子まで陶器になっているので、当時の風習や生活がよくわかるようになっている。
とても写実的な造形を残しているのが、他のペルーの文化には見られない特徴だ。顔付きの土器など実在の人物の人柄まで写し取ったかのように大変リアルなのだが、いくつか、あきらかに他と違った顔つきのものがあるのが面白い。天野博物館にネグロイド系の顔や、顎ヒゲを伸ばしたものだ。他人種の渡来があったかもしれないと思わせるものがあった。

月の神殿は遺跡も面白いが、併設された博物館もなかなか充実していた。

次に、チャンチャンというチムー王国の遺跡に。チムーはモチェ衰退後に興ったもので、 15世紀にインカの支配下に入るまで、非常に大きな勢力圏をもっていたという。これは海岸にほど近い場所に造られた広大な面積の都市跡だ。高い壁が張り巡らされていて、要塞のような造りだ。モチェと随分趣が異なる。




昼になって、海岸に出て昼飯を食べようということになった。こちらは季節は冬なのだが、海水浴客がいる。水温は決して高くない。チチカカ湖ウロス島にあったような葦の船がまだ現役だ。漁師がこれに乗って波を越えていく姿はなんとも勇ましい。



ここはセビーチェという魚介料理が美味しいとアンヘルが言うので、高くなければ食べようかなと。高くてもだいたい800円くらいというので、レストランに入ると、1200円以上するではないか。
セビーチェは魚介のマリネのようなものだった。生の魚や貝(つぶ貝みたいなやつ)タコなどが酢であえられている。ちょっとたくさん食べるにはしんどいし、それに生は....。

勘定の段になって、自分の分を払おうとしたら、アンヘルが、「俺の分は?」とか言うではないか。
はい? ツアーガイドならまだしも、タクシーの運転手の昼飯を?
「そんな話は聞いてない」というと、「普通そうなんだけど.....。だって昼食べないと一日仕事の約束だから」的なことを言う。「一日ツアー、昼食付き」はよくあるが、「一日ツアー、運転手の昼食支払い付き」は聞いたことない。店でもめるのもいやなので、仕方なく払い、「明日の昼は払わない」というと、「わかったわかった」と。それでもトータル的には通常の範囲なのだが、当然払ってくれというよな態度が非常に感じ悪かった。ペルーに来て一番高い昼飯だったのだ。こないだのペドロの彼女といい、よくわからんぞ。
遺跡でガイドの女性にアメリカ人の団体客が次々に札でチップを渡しているのを見た。全部足したらたいへんな額だ。彼らにしてみれば大した金額ではないだろうが、ちょっとどうなんだろう。この昼飯もそんなかんじで習慣になってやしないだろうか。

この後小さな博物館とチムーの小さな遺跡を見て、今日は終わりにする。本当はもう一つ行く予定だったが、アンヘルが「そろそろ終わりたいな」的な感じになっていて、私もどうでもよくなってきたので、明日に回すことに。

アンヘルはともかくとして、トルヒーヨはなんだか人当たりが柔らかい感じがする。ホテルのフロントや従業員も他の町と違う。強盗などの犯罪も少ないようだ。やっぱり気候が温暖だというのは大きい。サーファーもたくさんいて、アメリカの西海岸みたいな感じだろうか。

日が暮れてきて、簡単に夕飯を食べようと思うが、私の宿は病院と薬局が並ぶちょっと陰気な通りで、食堂もない。病院の前に棺桶屋があるのには驚いた。サンプルが置いてある。なんとあからさまな。

暗くなってから中央広場に行って、周りの軽食屋で食べようと出かける。すっかりクリスマス気分になっていて、電飾もきれいだ。鶏肉のテイクアウトなどを探すが無い。これまで泊まった町とちょっと雰囲気が違うのだ。あるのはマクドナルドやダンキン・ドーナツだ。面倒なのでマクドナルドに入った。やっぱりチキンのテイクアウトなどに比べると高い。
店員が「どこから来たの?」とか「名前は?」とか聞いてくる。通じないと奥から英語のわかる子を呼んできたりする。いろんな国のマクドナルドに入ったが、店員と雑談するのは初めてだ。


ハンバーガーを持って広場のベンチで食べていると、8歳と4歳くらいの女の子が赤ん坊がはいった乳母車を押しながら近づいてきた。親は回りにいない。言葉が通じないとなると「外人じゃーん!」みたいな感じで大喜びで隣に座る。なんだかよくわからないが、「名前は? 歳は?」とか、盛んに話しかけてはけらけら笑っている。特に下の子はクリスマスの電飾で気分がハイになっているようで笑い通しだ。「知らない男の人に声をかけられたら報告すること」というよな指導をされている国とは大違いだ。親はいつまでたっても来ない。
食べながらずっと一緒に座っていると、家族と勘違いした物売りが、「お嬢さんに飴をどうぞ」とか言って4歳の子に握らせたりする。「俺の子じゃないよ。ダメだよ。お前も返しな」というと、売り子の男は「そうか....じゃあ、ところでそのポテトを少し俺にくれ」と。「じゃあ...」って、どういう繋がり方なのかよくわからないが、あげる。「もっと取っていいぞ」というと、「ホントか?」と、勘違いして全部持っていこうとするので、「おい、全部じゃないよ」というと、子供が大爆笑。腹がよじれるくらい笑っていた。三人でポテトを食べ終わると、「じゃあ、私たち行くから、さよなら」と。なんだか私が遊んでもらったような感じだった。