オーストラリア・キンバリー旅行4日目

明け方、テントのすぐ近くを動物が歩く音がした。テントのすぐ外、私の顔の近くで荒い鼻息が聞こえた。牛だった。
オーストラリアの放牧地は滅法広い。広大な放牧地に牛が完全に野生の状態で放し飼いにされている。なので、道路を群れや親子連れが渡ることも多い。
売りに出すときはヘリコプターで追って集めると聞いて驚いた。インド原産だっただろうか、こぶのある、皮膚の垂れたタイプの牛が多い。

朝食を食べ、テントを畳んで、昨日行けなかったウィンジャナ渓谷に散策に出る。デボン紀に堆積した地層が侵食されてできたダイナミックな景観だ。絶壁は高さ100メートルにも及ぶところがある。オウムガイの化石が入っている壁面があった。

乾期も終盤にさしかかっているので、渓谷の水はかなり干上がっていたが、ワニが水たまりにいる。淡水ワニなので小さいが、皆ワニにばかり関心があるようだ。
河原には様々な小石が堆積している。渓谷を形成している堆積岩から転がり出た方解石、石英、雲母など、なかなか綺麗だ。


ウィンジャナ渓谷の後は、同じNapier Rangeの少し南にある、鍾乳洞の中を川が流れるトンネル・クリークへ。鍾乳洞の中を川が長さ約750メートルにわたって流れている場所だ。
ここは19世紀末にJandamarraという名のBunuba族の男が白人に対して反乱を起こした際、隠れ家として使っていた場所としても知られている。Jandamarraは警察官の有能な助手として働いていたが、親族が投獄されたことをきっかけに警察の銃器を奪って反乱を起こした。神出鬼没の超人的能力をもったカリスマとなったが、最後はこのトンネル・クリークで、アボリジニに殺害されたという。
洞窟内は明かりは無いので懐中電灯で歩く。枯れた鍾乳洞で、鍾乳石が土ぼこりをかぶっている。鍾乳洞というと、多湿なイメージがあるが、このように乾いた土ぼこりをかぶった鍾乳石を見るのは初めてだ。
出口の脇に壁画があった。絵のタイプからするとそれほど古いものでは無いようだ。半分消えかかっている。





トンネル・クリークを出、枝道を北上し、ギブ・リバー・ロードに戻り、さらに東へ。この日はMt. Barnett Stationのキャンプ場に泊まる予定だったが、とても夕暮れまでに着きそうもなかったので、手前のSilent Groveという国立公園内のキャンプ場へ行くことにする。
近くにBell Gorgeという滝の美しい川があり、滝の下で泳ぐことができるのだが、時間が無く、下見だけになってしまった。やはりオフロードは思ったよりも時間がかかる。振動が激しく、腰が痛くなってきた。Bell Gorgeへ曲がる枝道をやり過ごして、ギブ・リバー・ロードをさらに少し進んだ所に店がある。ギブ・リバー・ロードのガソリンスタンドは数えるほどしかない。一番長いところは350キロほど無いので、かならず給油しておかないと悲惨なことになる。「ギブ・リバー・ロード最安のスタンド」と、看板が出ている。オーストラリアのガソリン代は日本と同じくらいで、ディーゼルは日本より少し高めな感じがした。物価が総じて日本の倍以上することを考えると、ガソリンは比較的安めということだろう。ギブ・リバー・ロードに入るとぐっと値段も上がっていく。

店の脇にアボリジナル・アートの店もあった。絵は正直あまり感心しなかったけれど、バオバブの実に線刻で模様と絵を刻んだものがなかなか面白かったので、少し高かったけれど購入。どうも民芸品ぽいものに弱い。バオバブの実はマンゴーくらいの大きさで、表面はビロードのような質感だが、乾くと木肌のような感じになる。

Silent Groveの夜は冷えた。Broomeは日中30度以上、夜も20度以上はある感じだったが、キンバリーに入るとぐっと涼しくなり、夜は半袖・半ズボンでは寒くて外にいられないほどだ。これほどまでとは思わなかった。

今回はテントも手際よく設置、スーパーで買った肉を焼いて食べる。旨い。キャンプ場ではさぞやみんな火をおこしてワイワイガヤガヤやるのかと思っていたら、皆、実に静かだ。3ヶ月とか半年とか、長く旅する人が多いので、いちいち盛り上がらないのだ。

前日のウィンジャナ・ゴルジュも、この夜のSilent Groveも、キャンプ場の環境はとてもいいのだが、キンバリーは赤土の土ぼこりがすごい。キャンプすると何から何まで土ぼこりにまみれていく。手も顔もあっという間にガサガサだ。