オーストラリア・キンバリー旅行7日目

Drysdale Stationを朝早く出発してKalumburu Roadを北へ。Kalumburuは北岸沿いのアボリジナル・コミュニティだ。途中これを西に逸れて、Mitchell Plateau Trackに入る。この道はKing Edward Riverを越えるのが最大の難所で、雨期が終わっても水量が多くて渡れない時期がある。Gibb River RoadからKalumburu Roadに入ったときも道がかなりラフになったと感じたが、Mitchell Plateau Trackはさらにコンディションが悪く、乗っているだけでかなり消耗する。また、次第に砂っぽい道になってきて、尻が流れる。また、車が巻き起こす土煙が半端でなく、前を大型の車が走っていると、度々、ほぼ前が見えなくなることがあり、これが恐い。対向車の土煙もすごい。一度、土煙の中からバイクが現れ、ブレーキを踏みつつハンドルを切ったら、大きく尻が流れてスピンし、あやうく道路脇のブッシュに突っ込むところだった。下手をすると岩や木にぶつかって、はい終了、ということになりかねない。この肝を冷やす事件の後、さすがに少し減速して慎重になった。

King Edward Riverを渡ってからほどなく、岩絵が集中している場所が二つある。この地域にすむWunambai族にMunurruと呼ばれるこのエリアには様々な時代の岩絵が残っていて、いまでも人骨が安置されている埋葬地もある。
最も古い時代の絵とされるBradshawタイプと呼ばれる人物画群は、少なくとも今から18000年以上前とされているが、現在に至る岩絵の中でももっとも写実的な描写がなされている。モチーフは様々な装身具をつけて儀式に臨んでいる人物像で、動物は描かれていないのが特徴だ。年代に関してはまだ議論の余地がありそうだが、人間が描いた最古の人物像群であることはほぼ間違いない。この様式、技術はその後の岩絵には継承されておらず、白人が入植した時点で、アボリジニたちから全く関心をもたれておらず、自分たちの祖先のものではない、小鳥が描いた、などと言われていたことから、全く別の民族によるものではないかと主張する者もいるようだが、房飾り、細長い三角帽などの装身具の様式は今でもアボリジニのセレモニーの装束の中に残っている。
これはMunurruに残る房飾りを付けた人物画だ。房飾りを付けた人物画はBradshawタイプの中でも最も古い部類と考えられている。一万、二万という時を経た絵が、風雨、陽の当たる場所に野ざらしになっているにもかかわらず、現在まで残っているのは驚きとしかいいようがない。


Munurruのハイライトのひとつがこのワンジーナ像で、顔だけが連なっている様子は非常に印象的だ。訪れる者が増えているので、現在は周囲に柵が設けられている。

これはフクロウのようなワンジーナと時代の異なる人物像がいくつか混在している。

人骨が安置されている。埋葬地は多くの場合撮影が禁じられているが、ここは珍しく許されている。

キンバリーはこれまで岩絵を見てきたアーネムランドやローラ周辺に比べて、手型が少ないように感じた。

Bradshawタイプの、「Bent Knee」期と呼ばれる時代の絵。ひざを曲げて、踊っているかのような人物像が特徴だ。

二羽の鶴。ワンジーナ期の絵。

深いシェルターの中に描かれたワンジーナ。

かなりかすれているが、これも「bent knee」期の絵。

Bent Knee期の古い絵の上に重ねるようにして新しい絵がかかれている。古い絵に関して全く無頓着だったことが伺われる。Bent Knee 期の絵の人物はすごく長い帽子をかぶっている。三角の帽子はおそらくバーク・ペインティングに使われる、ペーパー・バーク・トゥリーの樹皮を丸めて作ったものだ。

Bradshawタイプの写実的な人物表現の時代からずっと下って、このような直線的なフォルムの人物像を描く時代がやってくる。氷河期が終わり、海抜がぐっと上がり、気候も変動することによって人間の移動、異なる文化間の軋轢などがあったに違いないと考える研究者は多い。柔らかいフォルムの人物画を描いた文化は絶え、新たに異なる部族による異なる文化が定着したのかもしれない。投槍器、返しのついた槍が描かれるようになったのも特徴だ。この絵の上から二番目の人物の左脇の下に描かれるL字型のものが投槍器だ。


この日訪れた場所は旅の主目的のひとつで、見どころ満載だった。
さらに北西奥へと進み、ミッチェル台地を目指すが、これが距離の割に時間がかかる。「まだ、着かないの?」というのが実感で、これは誰しもが感じることのようだ。

ミッチェル台地のキャンプ場に宿泊。キンバリーの乾期はどこもかしこも赤土まみれ。あっという間に車の中も、寝袋も、赤土だらけになっていき、さらに肌がガサガサになる。この日の夜、ゴミをビニール袋に入れて椅子にかけておいたら、深夜に袋をガサガサいじる音が。テントを叩くなどすると静かになるが、またしばらくすると始まる。正体を見たいが、テントから出ると何もいない。悔しいので外の椅子に座ってじっと息を殺していたら、大きなネズミ大の有袋類がスタスタ近づいてきた。懐中電灯で照らすと一目散に逃げていった。