スラウェシ島探訪5日目

この日は移動日だった。南へ下り、タナ・トラジャ地方に入るのだ。直線距離にしたら300キロもないが、やはり途中険しい山を越える所などあり、大変な時間がかかる。
テンテナからバスが出ているが、夜行バスで、13時間以上かかるというので、自動車をチャーターすることにした。130万ルピア、1万円強だ。他に相乗りする人が見つかったら折半できたのだが、残念ながらこの日はいなかった。仕方ない。
朝、ノニがBada渓谷の石の説明をしてくれた。NapuとBesoaは母親のドリスに聞かねばならなかったが、Bada谷の石については話を覚えているから大丈夫とのこと。バスなどを乗り継いで、何日かかけて巡ったことがあると言っていた。彼女は今、多くのインドネシア人同様、スクーターに乗っている。スクーターは本来不安定な乗り物だが、みんなすごい。2人乗りは当たり前、間に小さな子をはさんで3人乗りで凸凹の山道をスクーターで走り上がっていく。大変なテクニックだ。タイの道路で4-5人乗りのバイクは見たことあるが、舗装道路ならまだわかる。スクーターで凸凹、ぬかるみ、なんでもありの山道はすごいと思う。

ところで、実は間抜けなことにクレジットカードを紛失していた私は、支払いのために現金を手にいれなければならなかった。日本円はジャカルタ空港では換金できるのだが、件のドタバタでその時間が無く、ポソでは円を扱う銀行がなかった。テンテナにあるわけもない。ATMはあるのだが、一度に出せる金額が少額なので、何度も引き出さなくてはならない。
あらかじめクレジットカードの会社に紛失の届けと、別のカードで何度もATMから引き出すが、セキュリティーをかけないようにと頼んでおいた。
民家に泊まった後、テンテナに帰る途中、スマホSIMカードを入れ替えておいた。インドネシアは町のたばこ屋のような店でもSIMカードを売っているし、店主がチャージしてくれる。が、iphoneのSIMはサイズが小さく、私が寄った店にはそのサイズのものがなかった。どうするのかと思っていたら、なんと、大きなSIMもICチップの大きさは同じだなと確認した店の店主が、カードをハサミで切り、ヤスリでゴリゴリ削り始めたではないか。何度もやり直して、スロットに入り、「うん、これでOK」と。2GBに電話番号もついて、1か月のプリペイドが約600円程度だ。やはりアジアはたくましい。というか、日本の携帯会社が高コストすぎるのだ。これで電話が気楽に使えるようになって、クレジット会社にも連絡しやすく助かった。そもそもカードをなくすのがどうかしているのだが。

現金を手に入れなくてはならず、ノニのスクーターの後ろに乗せてもらって、複数のATMをまわり、なんとか現金を揃えたつもりだったが、私の勘違いで、少し足りなかった。
「米ドル札も使っていい?」とドリスに頼みつつ、一枚二枚...と札を数えていると、「なんだかしょうがないわね....」と、まけてくれた。申しわけない。
「そのかわり、ビール代はきっちり払いなさいよ、ん? 何本だっけ?」と。はい、もちろん払います。
慌ただしかったが、楽しい滞在だった。


トラジャ行きの車は運転主は若い20代の男の子二人で、トヨタの新しい車だった。一人はほんの少し英語が使えた。3日間、グナワンの排気ガスが入ってくる車に乗っていたので、驚くほど快適だ。
「日本のお金の単位は何て言うの?」と運転手の男の子。
「イェン、だね」というと、大笑い。「イェン」は女の子のことなのだと。
「イェニー、って言ったら、可愛い、っていう意味」だ、と運転手。
「じゃあ、ノニは"イェニー"だろ?」と聞くと、「ノニ? うーん...」。
「ノニは美人でしょう。優しいし。俺をいやな顔ひとつせずにあちこちスクーターで連れてってくれたぞ──」
そんな話をしていると、町の屋台で働く女の子を見かけ、「あ、○○だぜ」と声をあげる二人。窓から顔を出して「おーい、俺、俺! うん、これからタナ・トラジャに行くんだよ」と、妙に活気づいている。
「イェニー、なの?」と聞くと、「そういうこと」とのこと。そうかなぁ。髪の毛をかなり明るく染めた派手な感じの娘だったが。好みがちょっと違うなぁ。

いいかげん話すこともなくなって、寝たりおきたりしているうちに周囲の景色も変わってきた。車中からトラジャでガイドを頼んでおいたヨハニスに電話をかける。SIMを入れたときに電話も使えるようにしておいた。スラウェシ島で携帯電話で連絡できるとは、なんという時代だろうか。
ネットの発達と携帯の普及がタイムラグなく進んだためか、トラジャのホテルや旅行代理店はウェブサイトはあっても、メールで連絡しても何の返事もない。ホテルどころか、ライオングループLCCもウェブサイトはあるのだが、連絡しても返事が無いし、サイト自体も不完全だ。「予約の変更」というボタンを押しても「予約の確認」しか出てこない。ウェブがある、という形だけで機能していない。
今回、時間の余裕が無く、現地に行ってからツアーを探す時間がもったいなかったので、事前にTrip Adovisorのレビューで評判の良かったガイドにメールで連絡していた。すぐに返事をくれたのがヨハニスで、金額も細かく言ってきたので、彼に全部アレンジしてもらうことにしていたのだ。
ホテルに着くとヨハニスが待っていた。一泊1600円くらいの宿で、レストランもついている。翌日、遠くの村でかなり大規模な葬式があるというので、見学することになっていた。トラジャの人々は葬儀と埋葬に大変なエネルギーと費用をかける人たちなのだ。
車の運転手二人にビールをおごって、自分も魚の丸揚げとビール。自動車に乗っている時間がすごく長い旅だ。