バハ・カリフォルニアの旅4日目

朝早めにサン・イグナシオの宿を出てサンフランシスコ山地へ向かう。
標高が上がると少しずつ生えている植物も変わる。ほぼサボテンだが。

かなり標高が高くなったところでオフ・ロードに。シエラ・デ・サンフランシスコに入った。途中岩絵のサイトCueva de Ratonの横を通り過ぎる。ここは帰りに寄ることに。少し行くと、メキシコのINAH=国立考古・歴史協会のオフィスを兼ねた家に寄り、名前を書き、料金を払う。サンフランシスコ山地の遺跡は世界遺産に登録されているので、管理がかなり厳しいのだ。行く人は少ないが。


さらに少し進んだところにいくつか小さな牧場がある。簡素な家、教会、墓地。何人くらい住んでいるのかわからないが、後できいたところによると、親類縁者が多いようだ。一番奥の牧場ランチョ・グァダルーペで降り、ここから案内をしてくれるオールド・カウボーイのホセとロバ4頭、ラバ2頭と犬一匹のチームと合流。牧場のキッチンで昼ご飯を食べ、荷物をしっかりロバの背中にくくりつけて出発。3人で行くわりにはすごい荷物だ。




牧場があるのはほぼ山地の天辺。しばらくある程度平坦な道を歩くと、これから入るサンタ・テレサの岩絵群の案内板が。ここから谷底に一気におりて行く。かなり急な山道だ。ロバ・ラバ隊が滑り落ちないが不思議だ。ときどきズルッとなるが、転んだらそのまま谷底に落ちる。道が細くて滑りやすいのと同時に、左右に生えているのが全てサボテンや長い刺のある植物ばかりでつかむものが無いのも辛い。枯れたサボテンは普通の枯れ木のように見えるが、滑りそうになって反射的につかんでしまうととんでもないことになる。
ロバとラバは皆カウベルをつけているが、その音が涼しげでいい。



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3時間ほど下って谷底に牧場に。サンタ・テレサ牧場だ。こんなに離れた所に牧場があるのが驚きだ。隣の牧場に行くだけでも歩いて5時間はかかる。かなり高齢の婦人が住んでいるという。谷底には水があるので、ヤシの木やオレンジが生えている。
ロバ隊の荷物をおろす。皆ヘトヘトだ。足首から血が出ているものもいる。犬だけは元気いっぱいで年齢を聞いたら、14だという。とてもそんな歳には見えない。さらに、ホセはてっきり60代後半かと思いきや、私と三つしか違わなかった。

この谷に降りてキャンプするにはロバが必要なのだ。簡易な装備で自分でかついで下ることも可能だろうが、地元のガイドとともに行くことがルールになっている。彼らの収入源でもある。それにトイレも禁止されているので、簡易トイレなども持っていかねばならない。また、今回はアメリカに本社のあるツアー会社でアメリカ人相手のツアーなので食料など必要以上にそろっている。オーストラリアの岩絵を見て歩くツアーなど、クラッカーなど軽いもので済ませるのとはえらい違いだ。


テントをはって、次は夕飯の準備だ。プロパンのボンベをおろす。屋台で使うように小さなボンベだ。そこにホースをつないでコックを開けると、ガスが勢いよく漏れている! 
「ん? 締めが足りないかな?」とエドガル。きつく締めるが激しく漏れる。どうも見たところホースとボンベの接合部分のパッキンか何かが無くなってるようだ。これは困った。何かかわりになるものはないか、となって、私が足を痛めたときのために持って来たテーピング用のテープがあった。エドガルが細く切ってOリングのようなパッキンを作り、「たぶんこれでばっちりだろ」と。だが、やはり激しく漏れる。あれこれやったあげく、もうこうなったらミイラみたいに全部ぐるぐる巻きにしようぜ、と私。「そうだな、そこまでやればいくらなんでも...」やはり漏れる。何度巻き直しても漏れる。

「ヒデハル、ごめん、許してくれ。パンと果物だけで三日やれるか?」
マジすか? コーヒーとかも無し....? いやだと言ってもどうにもならない。
「たき火すればいいんじゃん?」と私。キャンプサイトにたき火の跡がある。
「今、禁止されてるんだ。世界遺産だから」
世界遺産...。なんて厄介なんだ。
エドガルがあれこれ試して疲れ果ててトイレに行っている間に、牧場から出て来て見物していた男が二人でボンベをいじり始めた。どうも、コンロの方の口を開いちゃえば根元ではそんなに漏れないと言っているようだ。
戻って来たエドガルに話し、やってみようということになった。でも、ボンベを風下に置いて、先に元栓を締めるのを忘れないようにしようね、そうだね、とお互い言いつつ、その後彼は何度も忘れることになる。


とにもかくにも、なんとか暖かい旨い夕飯を食べてビールを飲んで早々にテントに入る。結構疲れた。それにかなり寒い。ダウンジャケットを持ってなかったらかなり辛かったと思う。ツアー会社はウィンドブレーカーか何か持って来てと言っていたが、そんな甘いものではない。
今日は谷底に降りておしまい。明日から岩絵を見て歩くことになる。
満天の星。フクロウの鳴く声が。

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