アルゼンチン岩絵撮影行その6

いろいろあったLago Posadasを出て、北に向かう。西にアンデス山脈、東側はMonte Zeballosなどの山々が続く。チリとの国境はすぐ近くだ。
火山活動が生んだ岩峰と火山灰などの堆積物による地形が相まって、独特な景観を造り出している。
Monte Zeballosは玄武岩の塊のような岩山で先端の尖った独特な形をしている。標高2743メートルだ。手前にモニュメントバレーのビュート(孤立した丘)のような形の岩山がある。どこか最近出版した『奇岩の世界』で紹介したアルジェリア南部の景色にも通じるものがある。この道の景色は絶対に気に入ると思うよ、というクラウディオの言葉通り、見飽きない景観だ。



ふと、何かが道を横切った。アルマジロだ。大急ぎで車を降りておいかける。行き場を無くして、ピタっと止まった。甲羅の長さが20センチくらいだ。顔を草の中に入れていたので、もう少しよく見ようと草をどけたら、あっという間に逃げていった。なかなか足の力が強い。アルマジロは3日間泊まったエスタンシア・クエヴァ・デ・ラス・マニョスの周囲に結構いるから、と言われてはいたが、探して歩く気力がなかった。

火山灰が積もってできた丘に長い城壁のような岩が連なっている。人が積んだ石組みのように見えるが、自然に出来た形だ。溶岩流の外側が冷えて固まったものが残り、風化して長い壁のような形になったと考えられているようだ。さながらハドリアヌスの長城だ。


岩壁が天辺まで続いている山のひとつに登ってみた。玄武岩の岩壁はモザイク状にヒビが入っていて、これが風化して崩れ、周辺にはブロック状の岩塊が散らばっている。
さらには丸い滑らかなボール状の石があちこちにたくさん落ちている。これは火山灰の塊のようだ。上空でコンドルが数羽旋回している。
「何かの死骸があるのかな」
「僕らがどうかなるのを待ってるんだよ」
変化の少ない景色は距離感がつかみにくい。登り始めた山も思ったよりもずっと距離があった。



山の上にはひときわ高い「壁」の名残がそびえていた。下からは石柱ように見えたが、横から見るとまるで魚の背びれのようだ。面白い。



この山の隣には全体が火山灰の塊のような小山があり、奇妙な岩が突き出ている。ここも登ってみることにした。こちらの岩は玄武岩ではなく、凝灰岩だ。釣り鐘のような形、タジン鍋のような形と、奇岩をたっぷり楽しんだ。




さらに北上すると、アンデスからの雪解け水が流れる川に出た。かなり水量がある。周囲には木が生えていて、それまでの乾いた風景と一変する。これほど変化に富んだ景色が楽しめる道はないと、クラウディオも言っていた。
またアルマジロが道を横切った。再び急いで車を飛び出し、ひたすら追いかける。速い。転びながらようやく押さえたが、足の力がすごく逃げられてしまった。戦車のようだ。甲羅の長さが30センチほどもあるかなり大きなもので、毛がたくさん生えている種類だった。惜しい。草地に逃げ込む際、「グォグォ!」とうなっていた。「ふざけんなよ!」か「おぼえてろよ!」に違いない。

アルマジロは丸くボールのようになって身を守るのかと思っていたし、最近そんな動画をTwitterで見たのだが、クラウディオはそんな姿は見たことないという。そういえば動画はちょっとどこか作り物っぽかった。追いかけると土を掘って地中に逃げ込もうとするらしい。大きなものだと、掘るスピードも速く、穴に入りかけたアルマジロを引きずり出すのはかなり大変なのだそうだ。

さらに北上し、グラル・カレーラ湖畔のロス・アンティグオスに着く。観光地だ。レストランは音楽が大音響で流れ、「米ドルOK」と書かれた、バドワイザーを出す店が並んでいる。今朝までビールを空き瓶と交換でしか買えない町にいたのがうそのようだ。明日はチリに入って、ロス・アンティグオス湖の中の「大理石の聖堂」と呼ばれる岩を見に行く予定だ。湖に突き出た中が空洞になっている岩でマーブル模様のような流紋のある美しい岩だ。『奇岩の世界』で写真を探しているときに知った。

比較的うるさくないレストランに入って、サーモンのラビオリを食べていると、あ、いたいた、という感じで、クラウディオが店に入ってきた。
「明日だけど、たぶん岩を見ることはできないと思う」と。
天気予報によればかなり風が強く、彼の経験からしてまず舟がでないだろうと。船着き場まではかなりの距離があり、チリに入国しなくてはならない。何時間もかけて結局ダメとなったらがっかりすると思うよ、と。じゃあ、どうする? となって、いくつか提案してもらったが、谷歩きをするか、もう一度「手のひらの洞窟」に行くか、というようなことになり、朝までペンディングにしてもらった。楽しみにしていただけに残念だが仕方ない。ここに来ることはたぶん二度と無いだろう。
クラフトビールを売る店があったので、黒ビールと少し色の濃いビールを買って宿に戻った。