スラウェシ島・洞窟壁画撮影行 2日目

今日はMaros地方(sub district)から出て、Pangkep地方の洞窟へ向かうことになっているが、その前にガイドのDodoが勧めるRamang Ramangに。ボートで水路を進み、小さな村に行く。石灰岩もっこりした岩山が連なって水面に写る、ミニ桂林のような景色だ。マッカサル近郊ではおそらく一番の観光地(他にこれといって無い)だろう。キャビンの並ぶ、エコ・ヴィレッジ的なホテルも出来ている。

Dodoが結婚式を見ようと言うので、一軒の家に向かうが、凄まじい音量で音楽が鳴っている。ステージで使うような巨大なスピーカーが置かれ、ミキサーのようなものをいじる人、カラオケで熱唱している人がいる。どうしてこんなに凄い音でしかも外に向かって流しているのかと思ったが、どうも、結婚式をやっているということを広くアピールしているようなのだ。実際、今回の旅の途中で、大きな音が聞こえてきたなと思うと、結婚式だったということが他に2度あった。
家に上がると、親族が写真を撮っていってくれ、と。キンキラキンに着飾った新郎新婦が静かに椅子に座っている。テーブルに並んだ手作りのケーキなどをご馳走になる。スラウェシ島はタナ・トラジャでは葬式に参加し、今回は結婚式。全く縁も何もない異国の地で、「どうぞ上がっていって」と言われるこの不思議さ。来客が多いことはめでたいことなのだろう。
Dodoが、普通は新郎新婦同じ色の服を着るんだが、と言っていた。スラウェシ島結納金がとても高く、男にとって結婚はとても負担の大きなことなんだと同行の皆さんが。アクラムだけが独身で、現在貯金中らしい。




その後、同じエリアのKunang Kunangという鍾乳洞に入る。ここは壁画は無いのだが、ともかく鍾乳石が美しいからとDodoが。舟から降りて洞窟に向かう道すがら、プテロシンビウムの実を拾う。最近、木の実の図鑑のために撮影したばかりだ。風をうけて舞うように、袋状の羽根がついている。昨日はウスバサルノオの実を拾った。これも回転して落ちるタイプの種だ。薄い、割れやすい種だが、帽子に入れて持って帰ることに。


Kunang Kunangの鍾乳洞は鍾乳石の襞の美しい洞窟だった。



この後、Pangkep地方に入る。Bonto Lempangan村に入り、Bulu Sipong洞窟に向かう。Bulu Sipongとは英語でいうならLonely Mountainという意味だとアクラム。他の岩山と少し離れて、孤立しているので、そういう名前になったのかもしれない。主な洞窟は3つあるが、先ず中腹のBulu Sipong 2に、岩山をよじ登るような形で入った。ガイドをしてくれる地元の人は2人。
ここには状態は良くないが、舟の絵がある。


魚の絵もあるが、これは言われないとなかなか気づかないだろう。中央に縦長に描かれている。

これはバビルサだろうか。色は鮮やかに残っているが、形がはっきりしない。

この洞窟は開口部が広く、天井も高いが絵はあまり多くない。


さらに、岩山の最上部にあるBulu Sipong 1に。ここは比較的大きな入り口から入って、はしごを上って狭い穴を這って進み、絵のある隣の大きなスペースに入るようになっている。隣のスペースの開口部は断崖絶壁なので、そちらに直接入るのは難しいのだ。


ここには人が乗った舟の絵があり、私はそれを是非見てみたかった。手形を中央に、左右に長い舟が2つ描かれている。右の舟には漕ぎ手と舳先に銛を持った人物と二人の人間がはっきりと描かれている。外海に出るような舟ではなく川か沿岸で魚を獲るための舟なのだろうが、描かれている人間と舟の比率がリアルなものだとすれば、決して小さくはない。舳先にデコレーションのようなものがあるのも気になる。




岩絵のあるスペースの開口部からは、東南アジアらしい農村の風景が見渡せる。

人が片足を上げているような岩があり、みんなで同じポーズで写真撮ろうか、と言ったものの、タイマーが回っている間、私を含め姿勢を維持できない者がいたため、普通に撮ることに。この地元のガイド2人もいい感じの人たちだった。

Bulu Sipongの岩山には近年、手形が70も押してある洞窟が発見されたという。ただ、切り立った岸壁に開いた穴からしか入れないので、入るには本格的にロック・クライミングする必要がある。昨年一年だけでも30以上の岩絵のある洞窟が確認され、絵のある洞窟の総数は二百数十を数えている。三百を超える日も遠くないだろう、とアクラム。


Pangkep地方の洞窟の最後はSumpang Bittaだ。ここは山の上にあり、階段を千段上がる必要があるのでしんどいのだが、とても状態の良いアノアの絵があるようなので、行かねばならない。
Sumpang Bittaのある山の下には学校があり、運動部が階段をランニングしていた。学校の制服や運動部の様子など見ると、結構日本の学校に共通するものを感じる。
ここ数年、急斜面を上るとももが攣ることがあり、なんとかそれは避けたいので、付け焼き刃で筋トレなどしてきた甲斐があったのか、畏れていたほどではなかった。というか、若い二人が意外に苦労していた。だって、都会生活だもん、とアクラム。

Sumpang Bittaのアノアは、残念ながら修復された絵だった。バビルサの絵も複数ある。洞窟までコンクリ製の階段が作られているし、洞窟内にはベンチなどもあるので、おそらく観光地として一般公開しようとしていたのではないだろうか。それが、公開すると落書きがひどく、閉じることにしたに違いない。ここは人が少ないので、デートスポットにもなっているようで、数組のカップルが肩を寄せていた。2人だけになるために千段近く上がらなくてはならないというのも大変な話だが。

アノア、バビルサ、そして舟の絵も修復され、塗り直されているが、よく考えると、修復されていない絵で赤く塗りつぶされている絵は見ない。この旅を通じて見たオリジナルの絵は、全て輪郭と絵を線で描くスタイルだ。ということは赤く中を塗りつぶすというのは、とても修復とは言えないだろう。
塗り直されていたのは残念だったが、アノアはなかなかいい形だ。アノアの腹は丸く張っているし、バビルサも丸々としている。妊娠している雌なのかもしれない。獲物が増えるようにという多産祈願の意味もあるかもしれない。





再び階段を千段降りて帰路に。この日もビールが飲めるレストランに行く。食欲もあまりないので焼きそば(ミーゴーレン)だけにしておいた。私が魚料理など食べないとなると、BPCBの2人も焼き飯(ナシゴーレン)に。結構気を遣う2人なのだった。ビールも昨日と同じ2本飲んだが、料金は半分以下。3人で約1400円くらい。
階下から歌が聞こえて来ると思ったらDodoがカラオケを歌っていた。スラウェシは日本と同じでカラオケ専門の施設もあり、時間払いなのだが、飲食店にあるカラオケはYouTubeにアップされているカラオケ(歌詞つき)をパソコン画面に映し、音はミキサーで増幅・調節して流すというのが一般的らしい。どうも結婚式で流していたのもこれだ。
Dodoが帰り際に日本の歌を歌うというので聴いていたら、五輪真弓だった。インドネシアでヒットしたらしい。私はその曲を知らなかったが。