夜、砂丘と満点の星空という情景を期待したが、珍しく初めての全面曇天。日中の天候も心配されたが、すっきり晴れた。
明け方は5度(エレーナが温度計を持っていて教えてくれる)。かなり冷える朝だった。
さらに北へ進み、Tadrartを横断する二番目に大きな谷であるOued In Djeraneの東側のエリアに向かう。奇岩が多い。砂丘から突き出る奇岩はなんとも絵画的で良いのだが、その度に停まってもらうわけにもいかず。窓から大きく乗り出して撮影することになる。
「下手な鉄砲も..」方式でやたらとシャッターをきる私に対して、隣に座っているロバートはごく慎重に場所を選び、厳選したカットを撮る。車中から写真を撮るようなことはしない。彼のリュック型カメラバッグを見て驚愕した。ボディは私と同じD850だが、ツァイスの単焦点レンズがぎっしり入っている。全部合わせたらとんでもない金額になるはずだ。そして笑ってしまうくらい重い。レンズだけで12キロくらいあるようだ。10代前半でニコンFを父親から買ってもらって以来、ずっとニコンユーザーだという。私が生まれた頃のカメラなので、今70歳くらいということになる。そして、話の端々から彼はたいへんなインテリであることが伺えるが、どんな仕事をしてきたのかなど、あまり個人的なことはきかなった。彼は分厚いD850の機能紹介の本までも持参していた。予備のバッテリーも全て箱に入った状態で持ってきていて、私のようにガシャガシャつっこんできていない。彼を見ていると自分の雑さがちょっと恥ずかしくなるのだった。最近は朝起きてトランプのTwitterを見て奥さんと「またこんなバカなこと言ってる」と笑うのが日課であると。全然笑えないよ。
天井に牛の群れが描かれたシェルターを見る。ラクダも描かれているのでそれほど古いものではないのだろうが、牛、羊、犬、ラクダ、そして大小さまざまな人物象がとても繊細なタッチで描かれていて見ごたえがある。
砂丘を越えたところに大きな水たまりが出来ていた。ここで水を見るのは初めてだとアンドラス。出発の半月前くらいだったと思うが、雨が降ったという話をきいていた。水はどれくらい残るのだろうか。
礼拝所がある。メッカがどの方向かわかるように手作りされた簡単な礼拝スペースがあちこちに見られる。
北上しながらいくつかのサイトを巡る。非常に細い繊細な線で描かれた人物像が印象的なシェルターがあった。ごく細い草の茎などで描いているのだろうか。牛の尻尾の描き方など、粗く凹凸の多い岩面にさらっと描かれているが見事だ。
昼食は線刻画のある岩陰でとる。ダチョウに犬が噛みついている絵がある。朝と昼はバゲットを食べていたが、パンは乾燥で硬くなっていくため、このあたりからパンのかわりに、ふすまクラッカーというのか、カサカサの全粒粉のクラッカーになり、これが結構さびしい。砂漠の砂と同じ色をしている。インスタントスープでもあれば全然違うのだが。もう一度参加する可能性があったらフリーズドライのスープを持っていこう。この日は気温が低く、日陰に入ると寒いくらいだった。
錐形の黒い岩に線刻画が彫られた場所がある。一面はキリン、隣の面はゾウ、裏に人間の絵があった。キリンは光線の具合が悪くあまり鮮明に見られなかったが、ゾウは複数頭が重ねて描いてあり、これがまるで未来派的な動感を醸し出していた。
さらに北へ進むと観光客の多いコースに入る。砂漠に入って複数の観光客に会うのは初めてだ。フランス人の団体がいる。岩陰にきれいなクロスをかけ、グラスとカトラリーを置いたテーブルがあった。イタリアのツアー客用だという。90年代にタッシリの観光が盛んだったときはパリからジャネットまで直行便も出ていて、たくさんの観光客が来たようだが、誘拐事件とリビアのカダフィ政権崩壊と日揮のプラントのテロ事件などで観光客は激減。ジャネットの観光業も崩壊してしまったという。
Uan Zawatanという岩に牛が彫られているが、これがアウトラインを二重にして中面が盛り上がっているように見せる技法で、Messak様式と呼ばれるようだ。11月10日の夕方と11日の早朝に訪れたMarka Ouandiもこの様式とされている。サイの彫り物もある。
さらに北に向かってIn Tehaqへ。今日は久しぶりに自分たち以外の人間を見たので、なんだか妙な気分だった。キャンプ地を決めてから、アンドラスは砂丘を越えて隣の谷に岩絵を探しに。私も途中まで行ったが、先に戻る。
食事の跡はアブドゥラとハマがお茶をいれる。トゥアレグのお茶は中国の緑茶の茶葉にハーブを混ぜ、たっぷり砂糖を入れた器にポットから勢い良く注ぐ、ポットに戻す、また勢い良く注ぐという繰り返しで泡立てながら作る。これをショットグラスくらいの大きさのガラスの器で飲む。濃く入れたお茶は苦く、砂糖がたくさん入っているので甘い。この苦甘い味が一日の疲れを癒してくれて、癖になる。