南アフリカ岩絵撮影行 4日目

この日はひとつ南にある渓谷の終点にあるInjisuthiからBattle Caveに岩絵を見に行くことになっている。Battle CaveはDrakensbergの代表的な壁画のひとつなのだが、どこに問い合わせても返事が来なかった。いくつかのウェブサイトに載っていたメールアドレスに連絡し、電話番号にメッセージを送ったが、全く返事もなく、出発ぎりぎりになってようやくシャンペーン渓谷にあるホテルから返事があり、ガイドの電話番号を教えてもらった。電話でやりとりするのは苦手なのだが、仕方なくかけると、WhatsAppで連絡してくれということになり、なんとか日程もかたまった。

朝7時半出発ということになっていたが、この宿は朝食が8時からだ。受付に行き、暖かいものでなくていいから果物とかシリアルとか早めにもらえないかと頼むも、食堂に誰もいないのでなんともなりませんという融通のきかない返事。仕方ないので、近くのスーパーが開く8時まで出発を待ってもらう。

待ち合わせ場所に来たガイド氏は中学生の息子を連れて来た。「家でゲームばかりやっていて困るんで」とのこと。親の言うことはどこもあまり変わらない。彼に三脚を持ってもらうことになった。

Injisuthiまで続く道は途中から完全なオフロードになった。地図で見ると最も深く山地に入っている道だ。四輪駆動でないと無理というほどでもないが、普通の乗用車だと厳しいかもしれない。

Injisuthiはズールー語でWealthy Dogの意だという。どうしてそういう名なのかわからないらしいが。これは本来川の名前なのだが、これをキャンプ場の名前にしたらしい。

Battle Caveに行く道は景色が素晴らしいと書いているサイトがあったが、確かに。天気も雨の予報だったが晴れている。

 

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この日のガイド氏は植物に詳しい。薬草などについてもいろいろと教えてくれる。道は谷沿いのなだらかな道だ。Injisuthi川と支流を渡る。支流の脇にカワウソの糞が落ちていた。

ここはトレッキングコースとしては有名らしく、途中山から下りてくる人に多く会う。泊まりがけのトレッキングに行く人も多いようだ。崩落した砂岩の岩塊がごろごろしている。

 

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Battle Caveまでは2時間ほどで着いた。手前でドイツ人とフィンランド人の男女が待っていて、合流する。Drakensbergの岩絵サイトは基本、全て認定ガイドといっしょでないと見学できないことになっているが、Injisuthiのキャンプ場の女性マネジャーが、「後からガイドつきのツアーが行くから見学できると思う」というような感じで、入れてしまうようだ。

 

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Battle Caveはかなり深い場所にあるにもかかわらず、完全にフェンスで囲まれている。丁寧にフェンスの上には有刺鉄線さえ巻いてある。ここまでする必要があるんだろうかと思ったが、中にはかなりひどいいたずら書きがあり、無理もないと分かった。

サイトの前にまた違った色のバッタがいた。どうしてこう派手な色してるんだろう。

 

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かなり大きなシェルターで絵も多い。定番のエランドとエランドの霊を取り込んで変身しているシャーマンの絵がある。面白いのはシャーマンでドレッドヘアをしているものがあることだ。ガイド氏はドレッドのルーツなのだと言っていたが、確かサン人はかなり髪が短いはず。ドレッドにするほど長く伸びるのかちょっと疑問ではある。ドレッドにつり目の顔もあり、これがまるで「プレデター」のようだ。

 

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この場所で最も重要なのはシェルターの名前にもなっている闘いのシーンの絵だ。これは実際の戦闘ではなく、シャーマンがトリップして高次の霊的世界に飛翔する際通過する、悪霊との闘いなのだと。右下には鼻血を出して横たわっているシャーマンの姿がある。自らが見た場面を見ている自分を含めて描いているというのが面白い。どこか客観性がある。自分の霊的な旅を人に説明する機能もあったのだろう。

動物はとてもリアルなのに、人間はずいぶん抽象化した簡単な形でかかれているが、よく見ると弓矢が極細の筆で細かく色もつけて描かれている。ガイド氏は闘っている人物には弓を持たずに手で構える格好だけしているものがあり、それがリアルな戦闘の場面でない証拠でもあると言っていたが、どうだろうか。戻って画像補正したら弓が見えるかもしれない。

 

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絵はたくさんあり、なかなかゆっくり撮影できなかったが、来てよかった。特に、二頭のサイの絵が少し離れた所にあったのはうれしかった。この絵は南アフリカの壁画の写真としていろんな所に出てくるのだが、どの場所にあるのかわからなかった。

 

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帰りにガイド氏がもうひとつちょっとした岩絵サイトに寄って行こうと。男女のセックスの場面が逆さに描かれていて(よくわからなかったが)、その下にやはり逆さに描かれたエランド、その横に妊娠した女性が。不思議なことにエランドは体が逆さになっているのに顔は正位置になっている。これもシャーマンが見たビジョンなのか。このサイトは公開していないのだが、教えてくれた。名前がRock Porn Shelterとなっているので、そのままの名前で公開することもないだろうが。

 

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ガイド親子を彼らの家に近い交差点でおろし、コーヒーを飲むためにレストランに入る。彼らもピザを頼んでいたらしく、寄るというので、私もダチョウのハンバーガーというのを頼んでみた。特に癖のない肉だ。レストランには例の釣り鐘型の鳥の巣がたくさんあり、雛に餌やりをする親鳥たちで大変な騒々しさだった。

 

親子と別れる前、初めて息子が英語で話しかけてきた。ちゃんと話せるじゃないか、きみ。明日行くサイトに近いホテルに向かって高速道路に乗った。