南アフリカ撮影行 11日目

この日はCederberg Wildernessの中心部へ降りていく。昨日うろうろしていたのは北縁の部分で本丸はもっと南なのだ。

朝、宿は朝食は出ないのでClanwilliamに行き、スーパーマーケットの二階にある小さなカフェでイングリッシュ・ブレックファストを。スーパーはSparで、売っているものも特に南アならではという感じのものはない。ケープタウンのSparには寿司コーナーがあり、巻き寿司などがあった。

酒類は隣に専門店がついているというパターンが多い。

大きなソーセージが二本もあってとても食べきれないので、昼飯用に持って出る。

 

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Clanwilliamから真っすぐ南下すると山地の中央を通っていくような形になる。すぐに道がラフロードになった。ラフではあるが、それなりに平坦な路面だ。町から外れていくとトタンと板で作った、小さな箱のような家が密集するエリアを通過する。周囲にゴミも溢れている。市内の精緻な町並みと非常に対照的だ。宅地ではないので、ゴミの回収なども来ないのだろう。

岩山が続く絶景の道を下っていくと、ほどなくして「アルジェリア」に着く。

なぜ南アにアルジェリアが? と旅行の計画時から不思議に思っていたが、かつて植民地の監督官であったフランス人がアルジェリアの景色に似ていると言ってつけた名なのだそうだ。

オーストラリアでは白人の人名のついた町や山の名を、先住民が使っていた名に戻すうごきもあるが、こちらはそういうことはないんだろうか。住んでいたサン人やコイコイ人がいなくなっているから、主張する人がいないのかもしれないが。勝手にやってきて「アルジェリア」はないだろうと思うが。

 

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Cederbergを訪れる人は、ハイキング目的の人も多い。アーチ状の、あるいは窓穴の空いた岩、一本高くそびえる岩などの奇岩もあり、泊まりがけのハイキングコースもあるのだが、そうした情報などを提供しているのがアルジェリアキャンプサイトの事務所だ。

私がこの日行く予定だった二つの岩絵サイトは公園の南の端の方にあるのだが、そこはゲートで閉められていて、通行料を払って、ナンバーキーの番号を教えてもらって入る仕組みになっている。

受付の女性に、この先の道は普通のコンパクトカーでも問題無い?とたずねると、全然大丈夫、と。二つのサイト分の料金を払い、鍵のナンバーを教えてもらう。

隣には若いカップルが。男性が「ハイキングしようと思うんだけど、山の上は寒いのかな?」と。たしかに朝はジャンパーを着てもいいくらいの肌寒さだ。女性の方が薄着で、寒いのはイヤだと言っている感じだ。

「かもしれませんね」と受付の女性。

手続きをしながらも、「寒いとちょっと辛いよね...。寒いかな...、どうなんだろ」を連発する彼氏。

再び「ねえ、山の上はかなり寒いと思う? どの程度寒いかな?」と。

受付の体格のいい黒人女性がキレ気味に「そんなの私にわかるわけないでしょ!」と。

ですね。私も隣で聞いていて、この男どうなの? と思っていた。

ずっとラフ・ロードを走ってきたが、アルジェリア事務所からはインターロッキングで舗装された道になった。それがしばらくするとまたラフ・ロードに戻る。どうもアルジェリア周辺は国有地で、他は私有地、ということのようだ。Cederbergにはブドウ畑があり、ワイナリーがある。ワイナリーで試飲もできるようで(来る人は皆自動車なんだが)、名所のひとつになっている。ケープタウンにはオークの木も生えていて、これはワイン樽を作るためにヨーロッパから持ち込まれたものらしいが、成長が早過ぎて木の密度が低く、ワインが洩れてしまうので樽には使えなかったそうだ。

 

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南へ向かう道は分厚い堆積層を流れ、削り取っていったであろうかつての川の底だ。だんだんと路面も粗くなっていった。

気がかりなのは昨夜から警告ランプがつくようになったことだ。ランプ点灯時に「冷却液の量をチェックしてください。冷却液は車にとってお財布のようなものです」という文字が出る。冷却液て、この車、新車なんだけど──。いや、新車だからこそのトラブルとかだったら困る。8キロしか走ってなかった車なのだ。試運転しかしてないのだ。初期不良とか? 停車してエンジンを切ると消えるが、しばらく走るとまた点灯して「冷却液は車のお財布...」と。

この「車のお財布」てのは何なのか?「冷却液の量が足りません。このままの走行は危険です」ならわかるのだが、この妙にやんわりした物言いがいまひとつピンとこない。気になるので、マニュアルを見ると、「赤いマーク点灯時はすぐに運転をやめて...」とある。こんな山の中ですぐに運転をやめと言われても、あなた。そのあとどうすればいいか言ってみたまえ。エンジンの温度計は標準値を示しているし、ここから戻るにしても2時間近くかかる。もう先に進むしかないだろう。やはりオーストラリアで全くスタンドも何もないキンバリーで警告ランプが点いた(しかも、点検してもらった後も!)経験があったので、もうなるようになるだろうと。

奇岩の多い、いい感じの景色になってきた。

エリアの最も南に近いStadsaalに、鍵をあけて入る。ここは岩絵と洞窟の多い地形で知られている。

 

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Stadsaalの岩絵は一ヶ所だ。ゾウ数頭と人間の姿で、色が鮮やかなのだ。鮮やかといっても、どうも一番右端のゾウは鮮やかすぎる。これは後年塗り直されたのではないかと思うのだが、どこにもその記載はない。

 

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像の向きがまちまちなのが面白い。

壁面に黒い大きなシミがあるのだが、解説板にこれはハイラックスの糞尿が石化したもので(Hyraceum)、万年単位で残り、地元では胃薬として使われてきたという。中に閉じこめられている花粉などから過去の気候などを分析することも行われているらしい。

ハイラックスは猫くらいの大きさの動物で、大きさは全く違うし、顔は齧歯類っぽいのだが、ゾウに近い動物なのだ。アルジェリアの岩場で見た。ということは先日Giant Castle で見たのはハイラックスだろうか。

 

岩絵のシェルターを後にして、洞窟のある場所に。おそらく川の流れで削られて作られたものなのだろうが、複雑な形の空洞が連なる場所だ。

 

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次の目的地TruitJieskraalはかなり難儀だった。先ず、道がわかりにくい。一本道だから迷いようがないだろうと思いきや、一度キャンプサイトの駐車場を抜ける形になっている。また、道のコンディションがかなり悪くなっている。普通車でも通れるが、借りているのが新車ということもあり、気になって仕方ない。

キャンプサイトの人に教えてもらった道を進むが、かなり行ってもそれらしきエリアの入り口がない。道もどんどん悪路になる。見晴らしのよいところで行く手を見ると、ずっと山の向こうまで続いている。そんなに遠いって誰も言ってなかったし、地図を見るともっと近く見える。これはどこかで分岐を見逃したか(それらしいものは全く無かったが)と、仕方なく戻ることに。するとUターンしてすぐに後ろから車が。運転手にここに来るまでTruitJieskraalへの入り口ってありました?と聞くと、あったあったと。そんなに遠くない、と。

よかった。また行ったり来たりの繰り返しになるところだった。

入り口は鍵がかかっているはずなんだが、外されていた。どうせ大勢通るんでしょ、という感じで誰かが開けっぱなしにしたのだろう。

TruitJieskraalには駐車場が3つあり、2つ目と3つ目の駐車場の近くに岩絵があると聞いてきた。どうも車が泊まっているのが2つ目か3つ目かわからない。60代半ばくらいの男性と彼の娘くらいの女性の二人連れに「ここはいくつ目の駐車場ですかね?」と聞くと、

「いや、そんなのわからない。そもそも我々はずっと道がよくわからなくて困っているんだ。あんた、Stadsaalはどこにあるか知ってるか?」と。

Stadsaalはかなり遠い。ここから出て...分岐があったら右へ...と説明する。

男性は疲れ果てたような感じで「ここは大変な場所だな...。どうもありがとう」と。

足が痛いので、とりあえず道のどん突きまで行って、そこから引き返すことにした。最後の駐車場に着き、岩絵を探す。ここは高い切り立った岩壁がそびえていて、ロッククライミング好きの人たちが集まっていた。そのうちの一人に岩絵の場所をたずねる。

「岩絵、あぁ、昔見たな。登る岩はこれなんだけど....。岩絵は確か、あっちの方、ちょっと離れた所だったよ」と。

そちらに向かって歩いて行くが、途中で足跡もなくなる。元に戻って別の人に尋ねると、あ、それはほら、すぐそこの岩陰だよ、と。

また...。さっきのやつ、知らないなら知らないと言ってくれよ。ヒザが痛いんだから。

 

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三番目の駐車場の近くの岩絵はかなり薄くなったものが多かった。四つ足の動物と人間が合体したケンタウロスみたいな絵や、お尻のせり出した人物像など。

 

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道を戻って二番目の駐車場に。ここでも60代後半くらいの男性に、岩絵を見ましたか?と尋ねる。

「いや....。私はもうずっとこのへんで迷っている。ここは恐ろしい場所だ...」と。

入り口を普通に入ってくればそういうこともないと思うんだが、さっきの人といい、この人といいどっちの方向から来たんだろう。

 

二番目の駐車場の岩絵はずいぶんとサイトが整備されていて、洞窟の地面に石が敷き詰められていた。

人物画で頭に耳のような角のようなものがついている絵がある。解説によれば、これもシャーマンの変身の表現なのだと。それにしても、Drakensbergのシャーマンの変身にかかわる絵と比べると本当に素朴な絵だ。いや、Drakensbergの絵が特別凝った描写なのだが。

 

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これで今日の岩絵、いや今回の旅で見る岩絵は終わり。ヒザの怪我で一ヶ所行けない所があったが、他は全て希望通りだった。ボルネオ島行きを断念して急遽行き先を変えたわりには、見たいと思っていたものはほぼ見ることが出来た。

奇岩を見ながら同じ道をゆっくり戻る。どうか冷却液不足で車がえんこしませんようにと。

 

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ところで、このサイトに入る道が砂地で轍が深くえぐられているために車の腹を甘こすりする場所が多く、砂はともかく、石でガガガってやらないか、気が気でなかった。オーストラリアでエクストレイルの腹のガードを壊して大変な目にあったことがあるからだ。新車なんて迷惑なだけだ。

帰りも警告マークが点きっぱなしだった。「アルジェリア」に戻り、冷えたコカコーラを飲む。日中はやはりかなり日差しが強く渇く。こういうときくらいしかコカコーラなんて飲まないのだが、こういうときはうまい。

受付の女性が、「あ、戻って来ましたね。どうでした?」と。

「良かった〜、けど、道が腹を軽くこする感じでちょっと危なかったよ」というと、「そうなのよ、雨の後とかはねぇ」と。

そうなのよって、全然問題無いとか言ってなかったっけ?

 

このエリアには赤い大きなプロテアが生えているのだが、残念なことに全て花が終わっていた。Drakensbergとケープ半島はまだそれなりに咲いていたのだが。

 

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Clanwilliamに戻るが、昨夜と同じレストランに入る気がしない。それに、今日は最後の夜だから、買ったスナックやら飲み物やらそれなりに片づけねばならない。特に問題なのはビールと間違って買ったシードルだ。400ml以上ある缶が3本だ。甘味のあるシードルをそんなに飲むのはちょっと辛い。売店でナッツを買って、それをつまみにシードルをがぶ飲みして、夕食とすることにした。

 

まだ明るいうちに宿に戻る。場所をカーナビに入れたので大丈夫なのだが、なんとなく昨夜のトラウマがあるためか、明るいうちに宿に戻りたかった。

帰りの荷造りが大変だ。でかい松ぼっくりが6つ。スーツケースに入るだろうか。

 

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