「先史時代の岩絵の世界」その4

先史時代の岩絵の世界第4回

アルジェリア/「緑のサハラ砂漠」の記憶

 

 アルジェリア東部、見渡すかぎり不毛の地が続くサハラ砂漠の真ん中に、2頭のキリンの絵が彫られた岩がある。砂と岩山しかない周囲の環境とあまりに不釣り合いだが、この絵はサハラの遠い昔を物語っている─。

f:id:lithos:20181110174137j:plain

アルジェリア、イリジ県、ティン・アレソウのキリンの線刻画。

 北アフリカを覆う世界最大の砂漠サハラが、かつて緑豊かなサバンナだったことはあまり知られていない。

 約1万年前、氷河期の終わりにともなう気候変動で急速な湿潤化が進んだ。雨が降り、砂地に川が流れ、植物が茂り、森林さえあったという。「緑のサハラ」と呼ばれるこの時代は約5000年前まで続く。

 「緑のサハラ」には、植物だけでなく、現在はアフリカの中・南部にしかいないライオン、ゾウ、キリン、サイといった動物が数多く棲んでいた。キリンの絵を刻んだ岩はこの時代の産物なのだ。

 サハラ砂漠には、時代の異なるおびただしい数の壁画がある。「緑のサハラ」の時代から、再び砂漠に戻っていくまでの数千年間、さまざまな人びとがこの地にやって来て、去っていった。その移り変わりが、絵巻のように残されている。

 最初に登場するのは、狩猟民だ。丸い頭の、下肢の肉付きのよい人たちの姿が描かれている。仮面や装飾をつけて踊る姿もある。次に牛を連れた遊牧民たちが現れる。壁画には、牛の模様が1頭ずつていねいに描かれている。

 遊牧民には東アフリカから来た人たちと、後に地中海沿岸から来た白人とがいたようだ。どちらも独特なタッチで洗練された壁画を数多く残しており、そこから当時の暮らしぶりを知ることができる。家族で和む場面、弓矢で闘う場面、宿営地を襲ったライオンを退治する場面──。

 乾燥が進み、緑が失われていくと、馬を持ち込んだ人たちが現れる。馬2頭立ての戦車も登場する。日中と夜間の気温差が大きくなり、人びとは長い服を着ている。そして、紀元前100年頃、サハラが再び完全に砂漠になると、ラクダを連れた人たちの姿が現れるのだ。

 異なる民族、集団が出会うとき、さまざまなことが起きただろう。なかには不幸な結果を招く出会いもあったにちがいない。

 一昨年の壁画探索行で、そうしたことを伺わせる絵を見た。黒い人々の行列だ。皆、どこかうなだれているように見え、顔を両手で覆う姿もある。泣いているようにも見える。行列が向かう先には白い肌で縮れ毛のアフロヘアの人たちが、牛とともに描かれている。この人たちの一人は黒い人たちの行列を先導しているようだ。

 これはどんな場面なのか、描いた人はどちらの側の者なのか──。想像を巡らせてみるが、知る術もない。確かなのは、仮にこれが二つの集団の争いの結果を描いたものであったとしても、勝者もまた、この地から退場していったということだ。

(『しんぶん赤旗』5月22日掲載の文章を再録)

 

f:id:lithos:20181117202952j:plain

アルジェリア、ティン・ハナカテンの壁画。黒い人たちの行列と白い人たち。

f:id:lithos:20181115232447j:plain

アルジェリア、イリジ県、タドラルトの弓を引く人の壁画。