タッシリ・ナジェールの旅 2日目

 ジャーネットの宿に泊まって翌日は市内の壁画を見ることに。午前中はジャーネットの西を流れる川(干上がっているが)の対岸の岩場まで歩いていき、壁画や刻画を見る。アンドラスは市内の店に食糧などの買い出しに出て、別行動。

 町のすぐ近くにあるので、落書きがひどい。人が集まっている様子を描いた絵があり、D-Stretchで補正してみると、とても面白い。環になって集まっている人たちの中で踊っている人がいる。はっきりそれとわかる姿は女性のように見える。その隣に描かれた角張った人物は男性だろうか。それにしてもこの落書きはひどい。

Djanet, Algeria

Rock Art, Djanet, Algeria

 

 刻画も興味深いものがあった。半人半獣の面白い像だなと思っていたが、帰国後ツアーの一員だったジャン=ロイクの本にはジン(妖怪、悪魔..)であると書いてあった。大きな男根が彫られていたものを、後代に削って消したようだ。このウサギ耳のようなものがある人物像はよく見られるモチーフだ。全てが同じ意味で描かれているものなのかはわからないが。

 ジャン=ロイクはソルボンヌ大の人類学教授で、サハラ壁画愛好家協会の会長でもある。絵のモチーフな何なのか、どの年代区分のものなのかなど、質問に答えてくれて大変ありがたかった。

rock art of Djanet, Algeria

ほとんど雨の降らないサハラだが、大雨で川が氾濫して町のかなりの面積が水没することがあったという。川の端に金網に石を詰めたものが並べてあったが、大雨の際に役に立つのかどうか。

Djanet, Algeria

 宿に戻って昼食をとった後、話合いがあり、この日中にタッシリの台地へ上がり口まで移動し、翌朝日が出たらすぐに出発することになった。人数も多いし、上に上がるまでどれだけ時間がかかるか心配なのだろう。

 午後は南の空港に続く道を行き、有名な「泣く牛」の刻画に向かう。途中、岩場に彫られたキリンの大きな刻画を見る。ニジェール北部にある実物大のキリンの刻画にも通じるようななかなか見事なものだったのだが、残念ながら光線のかげんではっきりと見えなかった。写真に収めるのはさらに難しい。

rock art of Giraffe, Djanet, Algeria

 

 「泣く牛」は前回も訪れたが、今回はちょうど光線の具合もよく、牛のレリーフがくっきりと浮かび上がっていて見事だった。奇岩の壁面に彫られたものだが、おそらく自然の岩の凹凸を活かして構成されている。これはサハラでももっとも洗練された刻画といっていいだろう。目から涙が出ているように見えることからこの名が付いているのだが、これも自然の窪みをアイデアとして使ったのかもしれない。

Crying Cow, Djanet, Algeria

Crying Cow, Djanet, Algeria

前回訪れたときは曇っていたが、今回は雲一つ無かった。

 ジャーネットに戻る途中で、「鍵穴様式」と呼ばれる古墳に寄る。これはGoogle Earthなどで位置を確認している人が多くいる独特な様式の墳墓で、遺物から約5000年ほど前のものという測定値が出ている。タッシリ周辺にかなりの数あるが、この配置とイヘーレン様式と呼ばれる白人系の遊牧民の姿を精細に描いた絵の分布とが重なることから、両者に強い関連があるとも言われているらしい。これが見られたのは嬉しかった。日が沈んでほぼ暗くなってから出発したが、なんとタイヤがパンク。真っ暗な中交換するというハプニングもあったが。角の鋭い石塊が多く転がっているので、あたる角度が悪かったのだろう。それにしても、パタゴニアに続き、パンク頻度が高い。

 

 

 宿で夕飯をとる。これは宿が出してくれた。炊き込みご飯とクスクスにトマト味の羊肉のシチューをかけたものだ。「最後のちゃんとした夕飯かな」と英さんが。食事を終えて荷造りをして、タッシリの台地に上がるためのキャンプ地Akba Tafilaletへ。

 「明日は朝日が地面を照らしたら朝食、その後すぐに出発」とアンドラスが。時間がないので、できればテントをはらずにマットの上に寝袋だけで寝てほしい、と。神経痛もちの私は冷えるのがいやだったが、仕方ない。

 風が出てきた。地面に横たわるとかすかに顔に砂がかかる。荷物を運ぶロバたちも少し離れた場所にすでにスタンバイしているのだが、うとうとしていると、ロバが叫ぶ声が響いて目が覚めるのだった。