タッシリ・ナジェールの旅 10日目

 この日はジャバレンまで最も長く歩くということで、足腰に痛みのある英さんとジャン・ピエールはショートカットすることに。それにしても、アンドラスの日程表に載っている距離は全くあてにならない。前日も日程表では12キロとあったが、20キロ近かった。どうも地図上の直線距離を結んでいるようで、サイト内を歩き回る距離や高低差は全く加味していない。皆、だいたい日程表の1.5倍はあるということがわかってきた。

私も平均10キロくらい、長くて15-17キロくらいとあるので、出発前に荷物を背負って10キロ強歩くことを繰り返したが、そんなもんじゃ足りなかったというわけだ。三脚を運ぶことは最初から止めたが、他のものも極力減らして、約2リットルの水とカメラ、フラッシュ、途中から予備のレンズとかも持たないことにした。

 「明日は15キロ歩くので..」とアンドラスが言うと、「うそでしょ、20、いや25キロでしょ」と一斉に反論が。それにしても、83歳のジャックとハンスの健脚ぶりが恐ろしい。ジャックはサンダルのようなもの(アウトドア用ではあるが)をはいていて、トレッキングポールなども使わない。夜もテント無しで砂の上にマットを敷いて寝袋だけで寝ている。彼はフランスで洞窟のある土地を購入、洞窟内に壁画などの遺跡がないか探索したらしいが、何も見つからなかったという。ハンスも一見ヨロヨロしているように見えるが、変わらぬペースで歩き、「この後、余力のある人だけ近くのサイトに行こう」というと、かならず参加する。だが、途中、「ときどき、どうして来てしまったんだろうと思うんだよね」とかすれた声で言っていたのが可笑しかった。

 最も健脚なのはドイツ人のペトラだ。すいすい歩いていき疲れた様子もまったくない。キリマンジャロも登ったという。

Alanedoumen

日程も終盤になってきて、水が少なくなってきた。そろそろジャーネットの水が無くなり、ゲルタ(雨水のたまった池)の水を消毒して飲む必要が出てくるかもしれないと。腹をこわす覚悟をしておく必要がありそうだ。幸い(?)便秘気味だったのでさほど心配でもなかったが。枯れた川沿いを歩くとイトスギの巨木がいくつもある。実がけっこう落ちているが、いつ頃のものかわからない。乾燥しているので腐ることもあまりないだろうから。長さ2.5センチくらいのものだ。

 

 

途中、Ozaneareという壁画のあるサイトを通る。大きなサイの絵が印象的だった。ゾウやサイなどは刻画は多いのだが、絵は少ない。キリンは絵も多く描かれているのだが。

Ozaneare

Ozaneare

Ozaneare

Ozaneare

 Round Head時代の絵も少しある。ウサギ耳の人物画で、腰巻きをつけているものが、ひとりの人物像にこれだけ要素がそろっているのは珍しいと、ジャン・ロイクが。

Ozaneare

Ozaneare

 それにしてもガイドのムハンマドの記憶力というか、方向感覚はすごい。どこを見ても奇岩の山か平坦な砂地しかない、特徴の無い景色で、よくどちらに行けばいいか見分けられる。もちろんコンパスなど使わない。セファールやジャバレンなど、有名な観光コースはよく知っている人も多いだろうが、Ozaneareなどは普通のコースには入っていない。子どもの頃に来たことがある、という程度の記憶(?)で、だいたい方角がわかるのだからすごい。頭にGPSが入ってるんじゃないかと皆言うのだが。

 この日は原因はわからないが、最後に予定よりも大回りをすることになり、さらに長く歩くことになった。キャンプに着く前に暗くなる可能性もあり、ひやひやしたが、なんとか真っ暗になる前に到着。26.5キロ歩いた。一日にこんなに長く歩くのは初めてかもしれない。恩田陸の『夜のピクニック』に出てくる高校は夜通し80キロ歩くという設定なので、そういう経験がある人にとっては26.5キロなんてたいしたことないのかもしれないが。

 前日くらいから気温がぐっと下がって、昼間長く歩くには助かる。夜は外にいるとダウンを着ていても寒い感じになってきた。風も強い。