コロンビア・アマゾン壁画紀行 その2

 ボゴタの幹線道前にある大きなホテルに宿泊したが、全部で6車線ある太い道路の中央をTrans Milenioという名の3両編成のバスが走り、その両側は一般車道かと思いきや、片側の3車線分が全て自転車と歩行者用だった。これは世界でも珍しいんじゃないだろうか。おそらく時間を区切ってのことだろうけれど。

 コロンビアはサッカーの次に自転車競技が人気だと聞いたが、町中をヘルメットをつけてスポーツタイプの自転車で走っている人がとても多い。バスも路線が多く、ボゴタ市内はほぼ網羅していて、乗り換えのシステムもとてもわかりやすいようだ。本当はこの日はこれにのって町外れのバスターミナルまで行き、北にあるファカタティバという町に壁画のある大きな岩を見に行く予定だったのだが、かなわず。国内便の飛行機がちょうど昼に発つので、少しホテルの近くを散歩して現代の壁画を見て歩いた。

 ボゴタはウォールアートが多く、これを見て歩く観光ツアーなどもあるようだ。今回も時間があればと思っていたが、全て無しになってしまった。地球の裏側まで来て本当にもったいない。

 

 

 昼に国内線Easy Flyで南東約270キロの町San Jose del Guaviareへ。隔日で日に一本しか飛んでない。バスもあるが、12時間以上かかる。もう一社やはり隔日で飛んでいる航空会社があったが、これはごく早朝でなかなか都合があわない。当初はボゴタに着いた日にそのままSan Joseに飛ぼうと思っていたが、うまく格安チケットの日が合わず、ボゴタで一日使うことにしたのだが、結果としてロサンゼルスからのフライトの遅れを吸収できたのだから、不幸中の幸いとも言える。

 

 San Jose del Guaviareに着くと、空港に今回契約した旅行会社の事務所があった。ここの女性マネジャーとWhatsAppで英語でやりとりしてきたが、会ってみると英語は全く話せないと。ちょっと噛み合わないところあるなとは思っていたが。でも翻訳ソフトでやりとりできるんだから便利になったものだ。

 その時事務所にいた人は誰も英語が話せないので、通訳が来るまで昼食でもということになり、町の食堂で魚料理など食べて筆談する。San Jose はGuaviare川のほとりの町なので魚料理が多い。

 彼女が急に今日は予定を変えて壁画サイトのひとつに行くからと言い出す。「今日?」「そう、今日」「そういう予定じゃなかったでしょ」「予定は変わるものだから。予定に入っている場所は全部行くんだから問題ない」──。

 これは困った。契約前に自分は写真を撮るのに通常の観光客の倍以上時間が必要だからそのつもりで予定を組んでほしい、壁画に直射日光があたらない時間帯に訪れるようにアレンジしてほしいと再三頼み、もうそれは大丈夫だから、わかったから、ちゃんとそのつもりで予定立ててるから、と何度も言ってたはずなんだが。なにか自分たちの都合で、ともかく予定を変えたいと。

「もしこちらのスケジュールを変えたいなら追加料金かかるかも」みたいなことまで言い出した。離れていてメッセージアプリ使ってるときはやりとりに時間がかかってもあまり気にならないし、長い文章を送ることもあるけれど、実際に本人を目の前にすると、翻訳ソフトで長い文章を打つのももどかしく、うまくやりとりできない。仕方ないので事務所に戻ってからボスに直接話そうと。

 結局、通訳が来て、彼に今日慌てて壁画サイトに行くのは絶対に困ると重ねて伝えると、彼らもしぶしぶ承知することに。全く油断ならない。ロスの空港で一泊したことでヘトヘトになっていて、とてもじゃないが、撮影用の機材を全部持って山に上がるなんてできない。

 この日は予定通り、Ciudad de Piedra「石の町」という、奇岩サイトに行くことになった。着いたときはもう陽が傾いていた。つくづく今日壁画サイトに行くと強引に押し切られなくてよかった。

 侵食・風化によって独特な形になった堆積岩が並ぶ場所で、例によってキノコのような形の岩などがある。奇岩は期待したほど面白いものではなかったが、ここに生えていたホシクサという植物の一種が興味深かった。Flor del Guaviare「グアビアレの花」という名のついた固有種で、今はこの奇岩公園だけに生えているという。かなり厳重に保護されていて、触ることも禁じられていた。冬なので枯れていたが、形はきれいに残っている。

 

 

ガイドの若い女性はとても熱心に植生や地形の成り立ちを説明してくれ、それを通訳が可能なかぎり細かく伝えてくれるのだが、やはり時間が倍かかるというのはもどかしく、もしかしてずっとこれでいくのか?と少し心配になってきた。

 通訳のジョアンは英語の先生とのことだった。エイドリアン・ブロディに似た30代半ばくらいの優男で、「進撃の巨人」が大好きだと。気が合いそうだなと思っていたら、町に戻って、「じゃ、僕はこれで」と、車を降りる。

 え?ずっと通訳してくれるんじゃないの? 「さっき言ったように、僕は英語教師で、ガイドじゃないから」と。ピンチヒッターだったのだ。女性ガイドも車を降りて自宅に戻っていった。事態が良くのみこめずにいると、運転手が「ガイドが来た」と。

 若い男が「どうも〜。大切なのはエナジーと●●(忘れた)だよね、ヨロシク!」とか言いつつ乗ってきた。

 うわ、ちょっと苦手な感じかも....。ジョアンは丸いサングラスなんかかけていかにも文学肌の男だったけど。サンチアゴは弱冠24歳で英語も片言だけれど、サービス精神旺盛な人だった。

 San Joseの町を出て、真っ暗なオフロードを長く走り、 最初の宿Casa Piedraに。牧場が経営している宿で、簡素だけど雰囲気の良い民宿だった。3匹いる飼い猫が人懐こい。宿にはwifiもあると聞いてたが、正確には宿にはなく、100mほど離れた所にある店にあった。サンチアゴと運転手のダルウィンがビリヤードをしに行くというので、自分もビールを飲みに行くことに。満天の星だ。

 成田を出発してから丸二日以上。ようやくアマゾンの端に着いたと実感する。