南アフリカ岩絵撮影行 12日目(最終日)

この日はケープタウンまで約3時間かけて戻り、博物館に寄ってから帰国の予定だ。

朝、宿の主人に挨拶しようかと思ったが、家のドアが格子でしっかり閉じられている。今朝出ることは知っているはずなので、少し車のエンジンをかけて待ってみたが、反応無し。部屋に鍵を置いて出ることにした。着いたときは満面の笑顔で出てきたが、おそらくあの笑顔はそれなりに大変なのだろう。

岩肌に朝日があたっていい色だ。

 

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先ず、やはり気になる冷却液の量をスタンドで調べることにする。確かに、「このライン以上入れること」とされている水位より微妙に少ない感じではある。

「冷却液があったら足してもらえます?」と頼むと。「うんわかった」と。

彼は大きな水差しをもってきて水をドバドバっと入れた。

「水なの?」

「そう」

水なのか...。確かに冷却液が無いときは水でいいのかもしれないが...。蒸発するのも早いのでは...。車を返すときに文句言ってやろうかと思っていたが、なんだかレンタカー屋に報告しにくくなってきた。

とりあえず警告ランプが出なくなったので良しとすることに。

 

高速道路はあいかわらずみんな飛ばしている。だいたい流れに乗っていたつもりだが、一度、速度超過のカメラがチカッと光った。これはもしかしたら帰国後に請求されるかもしれない。

 

ケープタウンの博物館はおそらく植民地時代の古い建物なのだろう、クラシックな立派な建物だった。入口入ってすぐ、「Power of Rock Art」のコーナーがある。

おそらく、かつては「原始時代」というくくりだったに違いない。今は、南アだけでなく、アフリカ全土の岩絵の年代紹介と岩絵の意味など、とても充実した展示になっている。Blombos洞窟で発見された人類最古の芸術的意匠として知られる石片が展示されていたのは嬉しかった。Blombos洞窟はケープタウンの東300キロほどの海辺にある洞窟だ。この石に刻まれた模様は約80000年前につけられたものと考えられている。

 

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「岩絵のパワー」コーナーの最大の目玉は3つの大きな岩絵のパネルで、絵も保存状態もすばらしい。

 

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右の二つは東ケープ州のMaclear地方の町Lintonの洞窟にあったものだ。1916年に、道路工事で洞窟ごと壊される寸前だったところ、工事責任者が南ア博物館館長に手紙を書き、是非保存すべきだと訴えたのだそうだ。岩を壊すことなく剝がすのに石工や鍛冶が呼ばれ、剝がした後も山から下ろすのにかなりの困難をきわめたという。この部分を剝がし取るために周辺部分は壊されている。現在も洞窟はあり、残っている岩絵もあるというが、ということは結局道路工事で破壊されることはなかったのだろうか。

シャーマンがトリップしている姿も描かれている。

 

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横たわるシャーマンはトランス状態の果てに「死」に向かっている様子を示しているようだ。左下にはヘビの絵があるが、ヘビの頭はエランドになっている。シャーマンがトランス中の護身用に焼いたヘビの粉末を身につけることがあったようだが、それを示している、もしくは、エランドの頭部の毛の中に棲むヘビの神話があるが、それを示しているのかもしれないという。

シャーマンの口や頭部からはドットのついた赤いラインが延びていて、これが動物などに接続されている。何かの道筋を示すものか、「魔法のフォース」を示す光の糸のようなものでは?と、解説されていた。

 

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真ん中と左側の大きなパネルは発情期のエランドの群れのようだ。左側のエランドは追われて走りに走って鼻から血を出している。

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鳥の姿はシャーマンの霊的な飛翔を意味しているという。

ヒヒがシャーマンにするようにエランドに触っている絵もある。ヒヒは人間のシャーマンに通じる力をもっていると考えられていたようだ。

 

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とても見ごたえのある展示だった。

では、ミュージアムショップで本を買って帰ろうと思ったが、何故か館内案内図でミュージアムショップであるはずの所は隣のカフェが拡張されていて、何もなかった。ポップミュージックが大音響で流れている。係員に尋ねると、ショップはもう無いと。この博物館は岩絵がメインというわけでなく、動物や天体(プラネタリウム)など、総合的なものなのに。ここに来て、もっと知りたいと思う少年少女はどうすればいいのか。買う人が少ないのだろうが、公立の博物館なのだから、そろえるべきものはあるんじゃないかと思うが。なかなかネットなどでは買えない本があると期待していたのだが残念だ。

 

これにて全て終了。空港で車を返す。レンタカーの返却場は大混雑だ。

エミレーツのカウンターに。三脚をスーツケースから出して、三脚の袋に入れられるものを入れられるだけ詰め込んだ。これも預け荷物にしたかったのだが、ともかく持って入れと。無理して詰め込んだのが裏目に出た。すごい手荷物の量だ。

空港の両替で残ったランドをドルに替えようと並ぶ。これが何故だかわからないが延々と待たされる。申請者の個人情報を、住所まで含めて入力しているようだ。3つあるうち、私が並んだ所は特に遅く、隣の列がどんどん流れていくのに残されてしまった。ようやく私の番、というときになって、窓口にClosedの板が。

「え? 閉めたの?」

「はい」

「ずっとここで待ってたし、私で終わりなんだからやってくださいよ」

「私も家に帰らなきゃいけないので、隣で」

隣に並んでいる白人男性に、先に入れてもらっていいですか?ときくと、

「え? ここは私の列なんだが」と。

「そうでしょうけど、あなたが来るずっとずっと前からここで並んでいて、今、目の前で閉められちゃったんですよ」

「私は飛行機の時間が迫っていて、もう余裕がない。君の飛行機はどうなんだ」というので、はい、わかりました、失礼しましたと言って彼の後ろに。すると男が激しく文句を言い出した。

「だいたいこんなに時間がかかるのはおかしいだろ。セキュリティチェックで45分もかかったぞ。この国はもう第三世界になっちゃったんだよ。ひどいもんだ。あいつらは時給で働いているからわざと時間をかけているんだろ。あんたはどこから来た? 日本? 日本なら2分で終わることをやつらは10分もかけてやってるよ。なんて国なんだ!」

彼は南ア出身で今は家族を残してイスラエルで仕事しているようだ。

私もいっしょになって悪口を言ってるみたいに思われたくなかったが、彼はどんどんエスカレートして、窓口の黒人男性に聞こえるように「第三世界」を連発するのだった。

結局、彼は搭乗時間に間に合わなくなったのか、窓口の男性に「こんな国二度と来るか!」と吐き捨てるように言って去って行った。二度と来ないって言っても家族がいるんじゃないの?

なんだか後味の悪い南ア最後のひとときだったが、ドバイ経由で日本へ。

ヒザを悪くしたのは大変だったが、景観も岩絵もとても良かった。