箱根・寄せ木細工・七福神

義母を連れて家族で一泊で箱根に。宮ノ下にある、宿専用の小さな小さなロープウェイに乗って谷に降りていく老舗の温泉宿だった。風呂に入りつつ、久しぶりにかじか蛙の声を聞いた。のんびり過ごすはずだったが、宿に温泉水を使った小さなプールがあり、近頃水泳に命をかけている7歳の娘が、自分の泳ぎをしかと見よ、そして競争せよ、というので、つい真面目に泳いでしまった。ぬるいとはいえ、温泉水のプールでまじめに泳ぐもんではない。熱くて息が上がって大変だ。しかもここ半年間、椅子に座ったままで全く体を動かしていなかった。のんびりするというより、夕食後は疲れて泥のように寝てしまった。
宮ノ下は骨董屋の多い町だ。半分くらい外人向けなので、80過ぎの婆さんがやっている店がEdo & Co.なんていう名前だったりするのが可笑しい。外人が好みそうなオリジナルの浮世絵などを売っている。骨董ではないが、ヤリイカの形の箸置きの鋳物を衝動買いしてしまった。イカは食べるのも見るのも好きなのだ。(子供向けではあるが、『ふしぎなイカ―コブシメの誕生』という面白い写真集をおすすめしておこう)。
箱根の民芸品に入れ子状になっている七福神こけし人形があるが、ロシアの有名な民芸、マトリョーシュカは、箱根を訪れたロシア人がこの人形を見て、郷で同じようなものを作るようになったのが始まりなのだそうだ。
箱根で一番有名な民芸といえば、寄せ木細工だろう。からくり箱などがどの土産物屋でも売っている。私も今から35年くらい前に家族旅行で訪れた際に買ってもらい、今でも持っている。この寄せ木細工の多くは、木を組み合わせたものを接着剤で固め、それを薄くスライスして、箱などの表面に貼るという技法で作られている。金太郎飴を組み合わせものをスライスしたような、ヴェネチアン・グラスのような手法だ。こうした、表面の装飾用に寄せ木の薄皮を貼ったものではなく、全体が寄せ木そのもので出来ている、しかも着色などはせず、様々な色の木を組みあわせて模様を作り出す、無垢という手法で器やお盆、花器などを作っている人がいる。金指さんという工芸士の作る寄せ木細工は全てこうした手法によるものだが、美しく、工芸品として非常にクオリティーが高い。10年ほど前に知って以来、箱根に行く機会があると、できるだけ金指さんの店に寄ることにしている。質に見合った値段なので、そうそう気軽に買えない面もあるのだが......。
トルコなどでも、こうした寄せ木的な手法で作られた工芸品があるが(バックギャモンのセットなど)、かなり値の張るものでも、細かい作りは粗い。貝の象嵌が簡単に剥がれたり、模様がずれていたり、金具が閉まらなくなったりする。「ま、細かいことは気にせずに」という感じだ。これが気になって仕方ない。
金指さんの工芸品など見ると、日本人の手仕事の水準は本当に高いなと、実感させられる。

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http://www.1no1.jp/contents/site/dispmakerdetail.php?maker=10014&PHPSESSID=985119f363c56c6bb607afcb82b35fcc