パタゴニアの瑪瑙を巡る露骨な商売

lithos2006-07-03

巨石でなく、瑪瑙を巡るおかしな商売について。

10数年前から世界の瑪瑙を集めている。最初は鉱物フェアーなどで少しずつ買っていたが、ネット時代になって、地球の裏側で石を掘っている人と直接メールなどでやりとりをするようになった。一時は毎日のように石を買い、部屋中が瑪瑙だらけになって家人から「この人は大丈夫だろうか」という目で見られていたが、最近ようやく冷静になりつつあり、自分でもほっとしている。
ここ数年はパタゴニアで新しい、美しい瑪瑙が発見され、話題になっているが、これらの産地、価格を巡って、様々な情報操作、乱暴な商売が横行している。
メキシコ、ブラジル、ウルグアイ、アルゼンチンなどの中南米諸国は上質な瑪瑙の産地だが、産地はほぼ例外なく大地主の所有地で、採掘・販売ルートなどはごく限られた業者に限定されている。たとえば、メキシコのチワワ州は最上級の瑪瑙の産地だが、現地に行っても、地元の土産物屋などでは売っていない。北米の限られた業者に売られ、彼らが独占的に販売している。
アルゼンチンの瑪瑙は比較的最近になって発見された。90年代に入って、ドス・サントスという人物が古いドイツ人の鉱物収集家の記録を元に、メンドーサ州の渓谷を探し、数種の上質な縞瑪瑙の産地を探し当てた。彼は植民地時代の山師のようなキャラクターの人物で、現地人の荷役を銃で牽制しながら仕事をさせたなどと自慢気に語るような人だ。産地を秘匿するため、発見した瑪瑙に産地名ではなく、「コンドル」「クレーター」「ピューマ」などの商標を付け、しばし独占的に商売をしていた。
彼の商売が上手く行っているのを見て、アルゼンチン内で新しい瑪瑙の産地を探す人が増えたが、数年前にパタゴニアで新しい瑪瑙を見つけたのがB氏だ。彼はウルグアイのカルセドニーの産地を持ち、台湾などに輸出していたが、パタゴニアの砂漠地帯を探索し、最上質の瑪瑙の産地を見つけて、世界中の瑪瑙のコレクターのメール・アドレスをあれこれ調べてDMを打った。どこで調べたのか分からないが、何故か私のところにも来た。最初は非常に丁寧な応対で、写真なども数種類送ってくれ、値段もさほど高くなかったが、相変わらず産地は秘匿されていた。彼の瑪瑙がドイツ人のコレクターに渡ると、価格や商売の形が一変した。ドイツ人ブローカーが法外な値段を付けても市場で売れることを知り、B氏の瑪瑙はあっという間に、二倍、三倍、五倍となり、相手によって価格を変えたりして、刻々と商売の仕方がおかしくなっていった。だが、価格操作も、本人は上手くこなしているつもりだったが、いかんせんネット時代は情報が行き渡るのも速く、「なぜ人によってこんなに値段が違うんだ?」という話があちこちで聞かれるようになった。産地に関しても、ドイツ人は正確な産地情報を求めるので、「教えられない」では通用しなくなり、少しずつ明らかにし始めたが、これに多くの虚偽が含まれていた。
B氏が卸値をつり上げるので、商売がしにくくなったドイツ人ブローカー氏は自分でアルゼンチンに赴いた。パタゴニアまで入ることはできなかったが、現地の他の業者と連携し、メンドーサ州のアルゼンチンの瑪瑙の新しい販売ルートを開発した。相変わらず、法外な値段を付け、Ebayなどで売っているが、さらに、B氏が見つけたパタゴニアの瑪瑙までも、「自分がみつけた」と虚偽の情報を流すようになった。ドイツの鉱物雑誌にこのブローカーの嘘の情報が載っている(B氏から買った瑪瑙を、「私が現地に赴いて自ら採取した」と書いている)のを知ったB氏は激怒し、自らの顧客に「嘘の情報に惑わされないように」とメールを打ったが、いかんせん、彼の商売は限られた買い手を相手に、価格をつり上げつつ売るという方法になっており、自らの産地情報にも虚偽が多く含まれていたため、彼の抗議は必ずしも行き渡ることがなかった。最近はドイツ人ブローカーに瑪瑙を供給していたM女史もコレクター相手にDMを打つようになり、しかもB氏の悪口を頻繁に流している。アルゼンチンの瑪瑙は本当に綺麗なのだが、販売を巡る政治はあまりに露骨だ。