地震-2

被災地の映像には想像を絶するものがある。瓦礫の山に向かって泣く子どもの姿に胸が塞がる思いだ。まだ孤立している被災地など、少しでも早く救助の手が差しのべられることを切に願う。


計画停電」は東村山市が三つのエリアに登録されていて、自分の住んでいるところがどのエリアに該当するのかよくわからなかった。電車の事情もわかりにくかったので、自動車で事務所に向かったが、これも決していい判断ではなかった。
いつもなら1時間強で着くところが3時間半かかった。道路際のガソリンスタンドはほぼ全て売り切れ閉店状態。たまに開いている所があると数十台も行列が連なり、これが左車線を塞いでさらなる渋滞の原因になっていた。そもそもガソリンの値段が上がっていたので、休日はかなり混んでいたが、これが地震で一気に殺到することになった。なんでそこまで? と思っていたが、自分の車のガスが少なくなってきて、どこも開いていないとなると、これも困った。
朝霞の陸上自衛隊の駐屯地から車両が次々と出て、外環方面に走っていった。

事務所に着くと、周囲は特段地震前と違う雰囲気も無かったが、余震でさらに部屋の中が崩れていた。
コンビニは棚もガラガラ、カップラーメンすら少ない。電池は全て売り切れ、ビックカメラも店頭で店員が電池は無い旨大声でアナウンスしていた。停電があるので、電池はわかるが、カップラーメンやトイレットペーパーは、これは余震の心配なのか、それとも新たな地震への不安なのか?

父親が救急に入ったと聞き、必要なデータのみコピーし、なるべく自宅で仕事できるようにして早々に事務所を後にしたが、帰りの道もまた大渋滞だ。ほぼ一日、自動車に乗りっぱなしだった。

ラジオを聞くと、私が好きなTBSの女性パーソナリティが、ジャーナリストをゲストにデマや流言に惑わされないように、という趣旨の話をしていて、ネット上でどんなチェーンメールや間違った情報が流れてるか、紹介していた。娘の携帯にも友達からコスモ石油がらみの、有毒物質が降り注ぐ可能性がある、というチェーンメールが届いたので、転送しないように言ったのだが、イソジンにはヨードが入っているから飲むといい、などの話が出回っているという。状況を考えれば、決して笑えない。
パーソナリティは「今、原発から人体に悪い影響があるほどの物質は全く出ていません」「専門家の意見をしっかり聞いて」云々と力強く言っていたのだが、「全く」にはちょっと驚いた。これはどうかと思う。誰も事態を正確に把握できていないからだ。圧力容器内の温度や圧力すら正確にモニターできていない、水位計もおかしいかもしれない、という状況の中で、モニタリングポストの数値がそれほど高くないからと言って、「全く悪い影響がない」とは言えないはずだ。そもそも、この手の話になると、必ず胸部のレントゲン照射と変わらない程度、ブラジルなど、自然界でも放射能レベルの高い場所はあるというような話になるのだが、「だから何の心配もない」とはならない。
今、デマや流言によってパニックが起きているわけではないから、むしろ最悪の事態を想定し、より広範な避難の準備をする必要が無いのか、議論すべきだと思う。現地の住民に配慮してか、過去の事故と具体的に被害を比較するような話がテレビでは全く行われていない。
また、テレビに出ている「専門家」というのは決してニュートラルな存在ではない。それぞれに仕事の経緯や立場があり、それが当然ものの言い方、現状や予測される事態の見積もりの違いになる。過去に圧力容器や格納容器の設計をしていた「専門家」で事態をかなり深刻に考えている人もいるが、こうした人はテレビには出ない。そもそも、蒸気を強制排気したり、海水を強制的に注入するような事態は、誰も想定していなかったわけで、こうした事態の推移と結果を見積もれる「専門家」などいない。
マグニチュード9.0の地震が起き、10メートルを超える津波原発を直撃することは99.9%ない、と言われれば、ほぼ100%という意味にとらえられがちだが、今回の地震はまさに1000年に一度というから、その、0.1%に相当する事態が原子力発電が始まってわずか三十数年で起きたわけだ。
数百年、千年という単位は地学的な単位としては決して珍しいものではない。また、半減期数千、数万、数億年という物質を扱う原子力産業にとっても決して大きすぎる数字ではないはずだ。