ベルファストの壁画

『巨石』で写真を貸してもらったアメリカ人の写真家Tom Kumpfは毎週月曜に写真入りのメールを送ってくれる。彼はベトナムで長く戦い、日本の基地にも度々来ていたらしい。私の本に、アイルランドのニューグレンジの近くにあるナウスという遺跡の内部の石室の写真を快く貸してくれた。本の執筆中、いろんな人にコンタクトをとったが、彼が一番親切に対応してくれた。経歴をみるとアイルランド系住民が住む地域で育ったとある。Kumpfという名前からして父方はアイリッシュ系ではないだろうが、彼の写真集はアイルランドの遺跡やベルファーストの子どもの写真など、いずれもアイルランドがらみのものだ。
私の印象だが、アイルランドの古代遺跡を調べているアマチュアの考古家などにはアイリッシュアメリカ人が少なくない。天体現象と石に刻まれた文様との関連を最初に論じたマーティン・ブレナンもアイリッシュアメリカ人で、しかもアイルランドに渡る前はアジアを遍歴し、日本にも長く滞在していたようだ。旅の終わりに荒波を越えてやってきた先祖の地の、さらに遥か昔の先祖たちの残した遺物に大変なこだわりをみせ、大胆な世界観を提示してみせたわけだ。広い意味で自らの依って来る道を辿る旅だったのかもしれない。Tom Kumpfはブレナンと仲がよく、何度か普通は入れないニューグレンジやナウスの石室に入って撮影をしている。
今週彼が送ってくれた写真は遺跡ではない。ベルファストにあるシン・フェイン党の本部に描かれた壁画だ。ハンストで亡くなったボビー・サンズの肖像や、政治犯の釈放を要求するものなど、いくつかあった中で、間抜けな顔が秀逸な一枚を添付しておこう。


Children of Belfast: Reclaiming Their Place Among the Stones