『ムー』!/陰謀論/ヴァルティナの新譜

『ムー』(!)に拙著『巨石──イギリス・アイルランドの古代を歩く』の書評が掲載された。有り難し。「先史超文明論」「宇宙考古学」的視点に欠けているという指摘はいかにも『ムー』ならでは、という感じだ。これまであまり詳しく読んだことのない雑誌だったが、非常に情報量の多い、今時珍しいくらい文字の詰まった雑誌だということにあらためて気づく。また、ティーン・エイジャー向けという印象があったのだが、「UFOと宇宙人」「超古代文明」「未知の生命体」「霊魂・来世」「ユダヤフリーメーソン陰謀論」などなど、それぞれかなり専門化されたジャンルになっている感がある。完全に「成人向け」っぽい感じだ。とても予備知識なしには読めない詳しさがある。
陰謀論といえば、9.11はアメリカの自作自演説という話がある。最近でもベンジャミン・フルフォードの本が随分売れているようだが、最近アメリカに取材旅行に行ってきた知り合いのライターが、知識人の間でも、こうした陰謀論を支持する人が少なからずいるということに驚いて帰ってきた。取材した平和学の大学教授が「飛行機が衝突して、あのような崩れ方をするはずがない。あらかじめ爆薬が仕掛けられていたのだ」と、真剣に語っていたという。9月11日のニューヨークのデモンストレーションでは、「事件をもっと調べてみる必要がある」というようなプラカードやTシャツを多く見かけたという。あるアンケート結果では、30数パーセントのアメリカ国民が事件そのものにアメリカ政府が関与していると疑っているという結果が出たようだ。ケネディー暗殺、モンロー暗殺説、アメリカ政府が宇宙人と結託している説やアポロ月面着陸ねつ造説まで、アメリカ政府に関する陰謀論には歴史があり、ものによってはいくばくかの真実が含まれているかもと思わせるものもあるが、この30数パーセントという数は大変なものだ。一方でイラクがどこにあるか正確に指し示すことができない国民が3分の2ほどいるというような話がある。アルカイダフセインも、アラブのならず者はみんな成敗せよ、というような論調から、ビルに衝突したのは偽装した軍用機で、本当の飛行機の乗客はどこかに監禁されていると信じている人たちまで、いろんな意味で、ひどく内向きな世界観のなかに閉じている感がある。

ヴァルティナの新譜が届いた。今回はビーター・ガブリエルが主宰するレーベルReal Worldから出ている。今ひとつ印象の薄いアルバムになっていて、ちょっと残念だった。先日も最近のヴァルティナは面白みに欠けるというようなことを書いたのだが、新作を聞いて、曲調も楽器のアレンジも、バリエーションに乏しい感じがした。姉のサリ・カーシネンが中心になって曲を作っていた頃には、フィンランド語特有の響きを強調する詩になっていて、韻律の面白みに富んでいた。「オイ・ダイ」とか「アイ・タラ」とか「スゥルハシィル」とか、なんだかよくわからないフィンランド語の歌を何故に世界中の人が楽しんで聞いたかというと、弾むような独特の言葉の響きの面白さによるところが大だったと思う。その特徴がほとんどと言っていいほどなくなっているのが、寂しかったのだ。

Miero