五来重『石の宗教』

五来重『石の宗教』を読んだ。本当は『巨石』を書く前に読んでおかなければならない本だったのだが、どうにも時間がなくなって叶わず、今頃になって読むことになってしまった。カルナックやエイブベリーの巨石を訪れたときの印象なども書いてあるが、基本的に、日本の石にまつわる関する信心、信仰に関する本だ。日本の仏教特有の五輪塔などは、もともと各地にみられる積石信仰が様式化されたもので、積石は本来風葬にかかわるものだったという話など、とても面白かった。ブリテン島、アイルランドの墳墓でも風葬というか、一定期間遺骸を屋外に置いた後、骨を再葬したと思われる形跡があるようだ。五来氏によれば、遺骸が乾いた骨になるまでの間は、悪しき力をもった霊が外に出てこないように隔離すべく積み石で塞ぐということが行われていて、この風習の記憶が「塞=サイ=賽の河原」という、祖霊を供養する積石信仰となり、やがて仏教に包含されて五輪塔のようなものになったという。ブリテン諸島新石器時代の共同墓にも、入り口を塞いだり開けたりしながら長い年月をかけて使用した形跡がある。中には骨の断片が入っており、遺骸をそのまま入れることはなかったようだ。骨が少なすぎるので、墳墓ではないのではないかという説もあるが、一定期間の風葬後の再葬とそれにともなう祭祀のための施設として見れば、無理なく考えられるかもしれない。この本では飛鳥の猿石を道祖神の原型、あるいは河童像の原型としてみるという説も展開されていて、これも非常に面白かった。庚申塚や馬頭観音などの石碑文化に関しても扱っている。庚申塚や馬頭観音は東日本に集中している。特に馬頭観音は養蚕の守護神とも考えられていたので、信州に多いという。私の母方の祖父は下諏訪で写真館を営んでいたが、晩年は郷土史をあれこれ調べて文章を書いていた。道祖神などの風習にも関心が深かったようで、町報に連載していたものが残っているが、なかなか読む機会がない。改めて少しずつ読んでみようかという気持ちになった。


石の宗教 (角川選書)