70年のジェスロ・タル

NHKがBS2で土曜の夜に時々やっている「黄金の洋楽ライブ」で、二週間ほど前にやった70年のジェスロ・タルのライブを見た。その日に見ていたのだが、途中で寝てしまったのだ。このバンド、結構好きなのだが、どうも途中で聞き疲れてくるところがあり、そういう意味ではちゃんとしたファンとはいえないのだろう。ヘビーなリフをこれでもかと繰り出す独特なくどさがあり、おそらく熱心なファンにはその重さ・濃さがたまらないのだろうが。私は今では大作主義が終わってトラッド・テイストが強まった『Songs from the Wood』『Heavy Horses』くらいが好きだ。どちらも発表当時は日本の音楽雑誌での評価は最低だったが、名盤だと思う。
番組は70年のワイト島で行われた野外のロック・フェスの模様が中心になっていた。5日間行われたこのフェスティバルは、前年に行われたウッドストックのイギリス版として期待され、60万人が集まったという。ザ・フーのライブも有名で、ビデオが数タイプ出ているし、フェスそのもののドキュメンタリーも映画になっている。主催者と観客がもめて、争乱が起きたのだ。そのへんはあまりよく知らなかったが、フェス終盤のこのジェスロ・タルのライブの前にあれこれもめたようで、要するにチケット代をきちんと回収したかった主催者側が、一度客を全て外に出した後で、再入場させようとしたのだ。マイクで「一度出てください。でないと再開しません」とやったが、前の方に陣取っていた客は折角手にしたいい席を手放そうとしないし、そこに、「だいたい囲いを作って金を取ろうというのが間違っている」という「お前たちは体制側か?」という当時特有の発想で絡んでくる人たち、壁を壊し始める連中など、収集がつかなくなりそうになる。数十万人を相手にあまりに手際が悪かったのだろうが、「ロックってのは自由な音楽だろ、だからロハで聴かせろよ」というのも、無茶な話だ。が、当時はそういうエゴを正統化するような言葉もいろいろあったわけだ。演奏者側にも客といっしょにフェスに「参加」しているという意識があったようで、「ミュージシャンにギャラが払えません」という主催者にタルのマネジャーが「俺たちを利用するな」とくってかかっている。ウッドストックも前売り券を販売したが、結局、ほとんどフリー・コンサートのような形になったらしい。さんざん楽しんだ後に残ったのは膨大なゴミで、十代半ばに歌舞伎町でウッドストックの映画を見たときは、最後に映るゴミの山を見てなんともいえない虚脱感と嫌悪をおぼえたが。
面白かったのは、片足立ちでフルートを吹くアンダーソンのスタイルが自発的なものではなく、デビュー間もない頃たまたま片足でハーモニカを吹いたのを見た雑誌記者が、曖昧な記憶に基づいて「このバンドのボーカルは一本足でフルートを吹く」と書いたために、やらざるをえなくなったという話だった。