アグニ/ゴングのDVD

弾道ミサイルに「アグニ」なんていう火の神の名前なんかつけよって、インドは。「ムー」(!)などでおなじみの「超古代文明」論者は、よくインドの古い叙事詩マハーバーラタ」に出て来る戦争は古代の核戦争で、モヘンジョダロから出て来るガラス化した石はその痕跡なのぢゃ!というようなことを言うのだが、これじゃ予言書だったみたいな話も出てきかねないではないか。

主に70年代前半に活動したフランスのバンド、ゴングのDVDを観た。ソフト・マシーンのオリジナル・メンバーだったオーストラリア人のデヴィッド・アレンが、フランスでウェールズ人の妻ジリ・スマイスと始めたユニットで、フランスのバンドとはいっても、メンバーはイギリス人、フランス人、フィジー人など雑多だった。ゴングという名の惑星からプロペラのついたトンガリ帽をかむった緑色の宇宙人が空飛ぶティーポットに乗って地球にやってきて人間に(インド思想的な)様々な精神的示唆を与えるという、コミックストーリーをアレンの漫画とともに作品化した三部作を発表した。とても風変わりなバンドだったが、ある意味、ヒッピーカルチャーそのもの、といっていいバンドだった。バンドのメンバーはテクニシャン揃いで、ジャズ・ロック的音作りとアレンとスマイスのへんてこりんな演劇的要素の取り合わせが面白く、10代の頃とても好きだったが、最盛期と呼ばれる70年代前半の映像はこれまで観たことがなかった。
今回のDVDは雑多な映像の寄せ集めだったが、ベストメンバーである73年の映像が入っている。しかも、スペインのカタローニャ地方にある、奇岩の山間にある古い修道院モンセラートの聖堂で修道尼などを前にライブをやっているのだ。普通考えられない状況だが、当時の院長が30分ならということで許可したのだそうだ。なんでも「精神性を重んじた音楽のグループ」だというから、いいか?という判断だったようだが、ステージでフニャフニャ踊るアレンなどを前に微動だにしないブラザーやシスターたちの対比はとてもドキュメントとは思えない、モンティ・パイソンのスケッチだと言われても違和感のないミスマッチ感で、なんだか観ていて恥ずかしくなってしまった。アレンは聴衆へのエクスキューズのつもりか、珍しく十字架などかざしたりしているが、内容はインド思想っぽいはずだし、サックス奏者の吹く旋律はどう聞いてもイスラム風なのだ。まあ、スペインなので、そのへんの混ざり具合には慣れている面もあるのかもしれないが。ヒッピーカルチャーのおとし子であるからして、当然バンドはドラッグと切っても切れない関係だし、よくまあ実現したものだ。
それにしても、モンセラート周辺の景観の面白いこと。奇岩好きな私としては是非訪れてみたい場所だ。


Monsterrat 1973 & Other Stories [DVD] [Import]