蘇民祭とイギリスの祭り

lithos2008-02-11

ポスターに大写しになっている半裸の男性の様子が卑猥だというので、駅から撤去されて問題になった、岩手県黒石寺の蘇民祭が、再び問題になっているらしい。なんでも、「蘇民袋」を切り裂いて中から小間木を出す役目の男性が素っ裸なのがイカンと、警察が通告してきたのだそうだ。かつては全員が素っ裸だったようだが。深夜に寺の境内で行われる祭りで、一人、裸の男がいるからといって、そこまで気にする必要もないと思うのだが、ポスター騒動で、全国から注目されたことから、おそらく「素っ裸は法律上問題ないのか」と抗議した人がいるんだろう。無形文化財なんだから、裸もその一部っていうことでいいと思うんだが。
それにしても面白い祭りだ。祭りはいくつかのステージにわかれているが、最後に寺の境内で「蘇民袋」の奪い合いになるようだ。
http://wadaphoto.jp/maturi/kisai_2.htm


豊穣祈願の祭りで、同じように冬に袋や麻布を巻いたものを奪い合う祭りはイギリスにも古くからあったようで、これがボールゲームとなり、フットボールの原型のひとつであるとも言われている。今もコーンウォールのセント・コラムなどではハーリングといって、豚などの皮に草などを詰め、銀で巻いた小さなボール(トップの写真)を、大勢で奪い合う祭りが続いている。
こうした祭りは日をまたいで行われるものも多いようだ。ルールは特になく、道路や畑や、人の家の庭、ぬかるみ、川の中、ありとあらゆる場所でもみ合い、重なり合い、ぶつかり合うという荒っぽいもので、「ロビンソン・クルーソー」の作者デフォーは18世紀前半にブリテン島各地を旅していた時、コーンウォールでこの祭りの様子を見て、驚きとともに記している。「友情も血縁も恩義も、いかなるものも、彼らの激情をいささかも和らげることはない」と。祭りの最中はみんな単なる「男の子」だと。日頃の関係なんて、この時には問題にならないわけだが、日本の祭りで褌一丁になったり、素っ裸になったりするのも、社会性を捨てるという意味では同じだろう。「日頃どんな服を着てるか」は問題じゃないのだ。イギリスのハーリングなどは競技になっているので、さすがに素っ裸にはならないが、キリスト教が入ってくる前はどんなことをしていたかわからない。何せ、ブリトン人も、ピクト人も、「裸族」であったと言い伝えられていたくらいだから(これは作られたイメージだが)。

スコットランドの北の海にあるオークニー諸島の本島にはBaという名の、やはりボールを奪い合う祭りがある。クリスマスと元旦に行われ、カークウォールという町を「上」「下」の二グループに分けて行われるようだ。ボールはコーンウォールのそれと比べて結構大きく、今のサッカーボールくらいはある。ひたすらもみ合ってスクラム状態になっているのは、ハーリングと同じように見えるが、それぞれのチームのゴールが決まっていて、どちらがゴールに持ち込むかで勝敗が決まるようだ。スクラムが動いて行って、ボールが出て、走り出す場面もあるようで、この辺にラグビーの原型らしさがある。

この癖のある発音....ほとんど英語が聞きとれない。

こうした伝統的な祭りはピューリタニズムの厳格主義が社会を覆った時代に随分と廃れ、前世紀初頭から第一次大戦後あたりにも随分と失われたようだが、今は保存、あるいは復興していこうという機運が高い。ケルト起源の火祭りヴェルテイン祭はエジンバラで、随分とショーアップされて続いている。どこかノリがアフロ的、ポリネシア的なイメージ、またはサバト的ではあるが....。火の周りでは体をペインティングした裸の男女が踊っていて、「蘇民祭」どころの話ではない。

こちらはヴェルテイン祭のコスチュームいろいろをアーサー・ブラウンの名曲に載せて紹介している。しかし、どうしてこう「悪魔的」にならなきゃいけないのかが、よくわからないけど。



Baの祭を行っているオークニーはかつてスカンジナビアの王国の(ヴァイキングの)入植地だったため、北欧文化とブリテン島の文化と混じり合っている面があるが、さらに北の果てのシェットランドには、ヴァイキングの長船を焼く伝統的な祭りがある。これを一度是非見てみたい。みんな頭に角のついたヘルメットをかむって、ヴァイキングになりきっている。

もうひとつ、ずっと見てみたいと思っていたスコットランドの真冬の祭りで、Burning of Clavieという火祭りがある。火のついた樽を持ち歩き、最後は据え置いて、燃え落ちるまで続くというものだ。かなりルーツは古く、モレイ地方のバーグヘッドという岬で行われる。この場所にはスコットランドで現在確認されている最も古い先住民であるピクト人の砦があった場所で、現在もその名残が残っている。なので、もしかすると、ピクト人の祭りがルーツになっているかもしれないという人もあるようだ。やはり18世紀頃に野蛮な祭だというので、廃止しろという圧力があったようだが、今でも続いている。


火祭りは楽しい。日本人は無類の火遊び好きだ。アメリカなどは州によっては手で持つような花火すら、個人で遊ぶ花火は全て禁止されているところがある。銃は簡単に買えるけど、花火はいかん、というのもわけがわからない。