マクドナルド「店長」訴訟に関して

先日、マクドナルドの元店長が超過勤務手当の支払いを巡って起こした訴訟で、店長は「管理職にあらず」という判決が下ったところ、セブン・イレブンも急遽、店長への超過勤務手当を検討すると表明した。マクドナルドの原田社長はあくまで店長は管理職であって、就業時間に左右されるような立場でないと言っているようだが、月の基本給が31万、成果主義の導入後は「上乗せ」が非常に難しいような達成目標を設定されて、店長がバイトの人数を減らしてやりくりしているような環境で、就業時間に左右されない「管理職」なんていう主張が通っては困るんだけど、今後は通る可能性も高い。例のホワイト・カラー・エクゼンプションも、修正されて法案化される可能性があるからだ。次の総選挙の結果次第で変わってくるんじゃないだろうか。
それにしても、訴訟に踏み切った元店長の日常を見ると、恐ろしいの一言につきる。月に休みが2-3日、睡眠時間は3時間とれればいい方で、その他の時間は全て店舗に張り付いていなくてはならない。それでも、会社が設定した到達目標をクリアするに、ぎりぎりの状態だったようだ。死と隣り合わせといっていい。この人は極度に厳しい環境だったのかもしれないが、自らの社員をこのような環境に置きながら、「自分の意思でやっていたことだ」と言い切れる神経が恐ろしい。そもそも法律でいうところの「管理職」というのは、「経営者と立場が一体である」ことが条件なので、このような働き方をしている人があてはまるわけがないのだが、解釈によっては微妙な部分もあるので、そのへんの「隙間」を利用する形で、バブル崩壊後に「コストカット」を行って来た企業が少なくないようだ。
原田社長は元アップルコンピュータの日本法人の社長だ。ついこの間まで、コンピュータが労働を物理的束縛から解放するかのように盛んに喧伝していた人物が、今は時給仕事のアルバイトに混じって深夜に芋を油で揚げ、突っ伏して寝ている客の間をモップで掃除する人物を「管理職」と呼ぶのだから、ふざけた話なのだが。

マクドナルドは米本社にロイヤルティーを払っているので、米本社としては、極端に言えば、とりあえず売り上げさえ立てば、利益は二の次でも結構という図式が成り立つ。米本社にとっては日本のマクドナルド全体がフランチャイズ(ではないが)のようなものだ。これは多くのフランチャイズ商売に共通する構図だろう。数年前、サンドイッチのsubwayフランチャイジーが米国で起こしていた訴訟など、結果がどうなったのかわからないが、滅茶苦茶な話だった。あるsubwayフランチャイズ店舗が開店して間もなく、本社が目と鼻の先に新しいsubwayの開店を認める。フランチャイジーは貯金をはたいて開店資金を工面し、いよいよという段になって何の通告もなく、同会社の「商売敵」が目の前に現れる。当然、本社と契約した際に見積もられていた売り上げ額にはほど遠いが、設備費の支払いやロイヤルティーは否応もなく発生する。ここからはマクドナルド訴訟と同じで、人権費を切り詰めて店長が奮闘するも、維持できず、訴訟に踏み切る。本社は同地区に一店舗でも二店舗でも、ある程度の売り上げさえたてば、「上納金」は入ってくるわけなので、商売として成り立つわけだ。
フランチャイズ契約には、ロイヤルティーが粗利益ではなく、仕入れに関わるロスなどを差し引かない金額に課せられていて、どれだけロスが出てもロイヤルティーだけは発生するということが少なくないことが最大の問題のようだ。店長は独立した事業者であるはずなのだが、仕入れに関する裁量はかならずしも「独立」した判断を許されていない。きつく縛りをかけつつ、「それはあなたの問題だ」という点で、今回のマクドナルドの訴訟における「管理職」問題と似た構図が見て取れる。
以下にコンビニのフランチャイズ問題をめぐる法学部の学生のレポートがあり、問題の要点がよくわかった。

http://web1.nazca.co.jp/combinidorei/thesisv2.pdf


本日より「時間外・退職金」なし (光文社ペーパーバックス)  肩書きだけの管理職 マクドナルド化する労働 (シリーズ労働破壊) [ 安田浩一 ]