タカラガイのこと

子どもと貝拾いをするようになって、改めて気づいたが、タカラガイにはとても多くの種類がある。さらに、同じタカラガイでも、成長過程と、完全に成長しきった姿ではかなりの違いがある。これが浜に打ち上げられ、波に洗われ、削れると、また違った姿になる。ベージュ色っぽい殻が削れると、紫色が出てきて、これがなかなか綺麗な色なので、わざわざ削って土産物に加工したりすることがある。
日本のタカラガイ専門の図鑑が昨年出た池田 等他著『タカラガイ・ブック』だが、この本はすごい。ひとつひとつのタカラガイの殻がどのように成長して姿を変えていくか、順を追って掲載し、さらに、死後波に洗われて削れていくと、どのように姿がかわっていくかまで、順を追って写真で見せているのだ。殻を上から、横から、裏から見た姿もきっちり載せているし、生きているときの姿も載っている。こんな徹底した図鑑は世界に例が無いのではないだろうか。ここまで詳しく知る必要がある読者はそれほど多くないと思うが、図鑑としてとても綺麗に、センスよく作られているので、手元に置いておきたくなる。綺麗であることは、図鑑にとって重要なのだ。
著者の一人である池田等さんの本『ビーチコーミング学』もユニークかつ素敵な本だ。池田さんは葉山にある「葉山しおさい博物館」の館長をされている。こどもの頃から浜に打ち上げられる様々なものを収集するのが好きだったという池田さんだが、「ビーチコーミング」とは、浜辺でいろいろなものを拾い集めることを指す言葉だ。最近まで知らなかった。『ビーチコーミング学』は、浜にあがった貝、魚などの生物の骨、様々な石、砂に磨かれたガラス片、海外からの漂着物、陶片、メッセージボトル、さらには卒塔婆から入れ歯、イチヂク浣腸の容器まで、浜から自然と人間の活動の過去、現在をよむ試みの、「序説」といっていいものだ。大きな判の本で、1ページ大の綺麗な写真と(ゴミも雰囲気のあるオブジェに見えるのは、写真の力によるところも大きい)ゆったり組んだ文章のバランスもとてもいい。

タカラガイ・ブック―日本のタカラガイ図鑑 ビーチコーミング学


タカラガイは、形が形なので様々な文化で珍重され、貨幣として流通したり、装身具などにも使われてきた。先日紹介したクバ族の仮面にはタカラガイがびっしりついているが、ニューギニアの仮面にも多用されている。「貝の文化人類学」というユニークな切り口の本が『海からの贈りもの「貝」と人間』だ。図版も多く、造本も凝った本でなかなか面白い。

海からの贈りもの「貝」と人間―人類学からの視点 (1985年)

海からの贈りもの「貝」と人間―人類学からの視点 (1985年)

先日、名前がわからないと書いた、内側の光沢が素晴らしく綺麗な貝はナミマガシラという貝だった。貝の好きな人にとってはよく知られたものだったようだ。貝の図鑑は学研から出ている『日本の貝』全2巻を持っていたが、オリジナルが70年代の図鑑で、写真が反射原稿(ポジではなく、プリント)を使ったと見える図鑑で、色が全体に黄ばんでいるために、この貝が同定できなかった。この図鑑は安価でとても良くできた図鑑だと思うが、これは先日書いた中山千夏の『海中散歩でひろったリボン』で紹介されていた益田一氏らが作った図鑑であるようだ。これだけ多くの貝の写真を揃えるには、かなりの労力が必要だったに違いない。ちょっと写真が古びているので、もう少し色のいい写真が揃っている図鑑はないのかなと思ったら、奥谷 喬司編著『日本近海産貝類図鑑』という2000年に出た本がある。定価39900円! うーむ。ちょっと手がでない。池袋のジュンク堂に一冊あるようなので、一度見てみよう。

日本近海産貝類図鑑