送別会

25年来の付き合いだったベテランの女性編集者・ライターの方が郷里の山口に帰られるというので、家族で送別会を兼ねて食事をした。最初の就職先だった出版社で同僚だった人の奥さんだ。何度か仕事もご一緒した。花見や忘年会など、ここ10年ほどは年に一度か二度のお付き合いだったが、遠くに行かれるとなるとやはり寂しい。
当時、件の出版社はどうしようもない閉塞感のある職場で、編集部員は新卒ばかり、こき使われたあげく、皆一、二年で辞めていくような状態だった。同期が次々に辞め、気がつくと一年過ぎで最古参になっていた。自分も早く辞めたい、いや、このまま辞めるのは悔しい....でもやっぱり辞めたい....というよな精神状態の中、一回り以上年上の人が入社し、二人で中間管理職的なことをするように指示された。この人が職業経験豊富な人だった。狭い狭い空間でジタバタしているところに、まあまあそう煮詰まらずに、世の中、ここだけが仕事場じゃないから、という当たり前のことを感じさせてくれて、これが大変な救いと転機になった。今の仕事をするきっかけを作ってもらった。結局、やはり二人とも後に再び煮詰まり、辞めることになったが、この人の奥さんが知り合って間もなく貸してくれたのが、ロジェ・カイヨワの『石が書く』だった。これが今回の自著の制作につながっている。彼らに出会っていなかったら、全く違った人生になっていただろう。
『石が書く』を貸していただいて、四半世紀経って、送別会で『石が書く』の拡大解釈判ともいえる自著を渡せたということに、なんとも不思議な縁を感じる。

不思議で美しい石の図鑑

不思議で美しい石の図鑑