『不思議で美しい石の図鑑』の3刷が出来た。2刷では特段の訂正は無かったが、今回、二ヶ所訂正した。
ひとつは81頁右上のNo.207の図版のキャプションで、「レインフォレスト・ジャスパー(No.110)」となっていたが、この「No.110」は110頁のNo.280の間違いだった。お恥ずかしい。
もう一ヶ所は141頁の風景石の解説の末尾の部分で、「また、最近は、パエジナなどの石の中に現れた山の形、断層のような亀裂、火山の噴火のように見える模様などは、現実の造山運動や火山活動と同じ地磁気の作用によるものだという説を唱える地球学者もいる。」という部分を、「また、最近は、風景石の模様とその石を産した山地の形状の類似に着目し、どちらの形成にも電磁気的なエネルギーの作用が深く関わっているという説を唱える地球学者もいる。」と変更した。
これはドイツの雑誌『GEO』の記事に関するものだ。この雑誌はかつて同朋舎出版が日本語版を出していた。日本語版・1994年の3月号に「『風景石』の秘密」という記事があり、ベルリン工科大学の鉱床学者カール・ハインツ・ヤーコプ教授の研究が紹介されている。
ドイツのハルツ山地から採れる「風景石」に現れるミクロな模様が、この石が採れる場所の地層面の模様と非常に良く似ていることを引きあいに出し、「これまでの学説によれば、山脈は主として褶曲や衝上断層のような地殻構造上のさまざまな力、あるいは地殻プレートの衝突によって形成されたと説明されてきたが」「石の模様と自然の地形との類似は機械的な力によって生じるのではなく、電気や磁気のエネルギー場で鉱物が移動し、特定の形状に自ら形成されていくのである。鉄粉が磁場の中で一定の模様を描き出すように、堆積物に含まれている鉱物成分も地中の電磁気的な場の影響によって標本のようにきちんとした模様を描くことが示されたのである。」という見解が示されている。
ヤーコプ教授は造山運動は地磁気の作用で説明できると考えているようで、ガラス容器に数種の鉱物の粉末を水と混ぜて入れ、電極を入れ、乾電池をつなぎ、数週間後に容器の中で山のような形が出来、ついには噴火のような現象まで起きる実験を行っている。
この仮説の妥当性がどの程度のものなのか、私にはよくわからないが、おそらく、現在風景石の模様を地球の成り立ちとともに論じている人はそういないだろう。数百年の時をはさんで、中世に風景石と天地創造との関連を考えた学者達との不思議なつながりがあるように思えて、ごく簡単に紹介したつもりだったが、いかにも舌足らずで、読者から批判をいただいた。造山運動が地磁気の作用によるというなら、地磁気の無い火星や金星の断層や火山はどう説明するのかと(火星にはかつて地磁気があったという説もあるようだが)。『GEO』の記事では、造山運動や断層などが全て地磁気の作用によるものだとはしていない。私の書き方では、そのように誤解されかねないので、3刷では、より簡易な記述に止めた。
『GEO』の特集はヤーコプ教授の説以外にも、風景石をめぐる簡単な歴史が記され、見事な標本の写真が掲載されている。興味のある方は古本屋などで見かけたら、是非読んでみて欲しい。
と、訂正を終え、この日記を書こうと思っていた矢先、CSのディスカバリー・チャンネルの「地球膨張説」に関する番組を見ていたら、件のヤーコプ教授が登場し、驚いた。彼は地球膨張説論者でもあるようだ。
地球膨張説は1960年代くらいまではそれなりに支持者も多い学説だったようだ。
かつて地球は現在の半分ほどの体積しかなかったが、膨張することによって、巨大なゴンドワナ大陸が現在のような陸地の姿になったのだと、主張している。番組では、風船にゴンドワナ大陸のモデルを貼り付け、空気を入れて、どのように大陸が分かれたか、実演して見せていた。恐竜があのような巨大な体を支えられていたのも、かつて地球の体積も重力が少なかったからだと論じている人もいるという。
この説はプレート・テクトニクス論が席巻することによって、現在は過去の説としてみるのが大方なようだが、それでもヤーコプ教授をはじめ、支持者はいるようだ。地球に降り注ぐニュートリノの少なからぬ割合がどこかに「消えている」「ニュートリノ欠損」という問題を、ニュートリノが地球の核にぶつかり、質量をもつ他の素粒子に変質していて、これによって地球の体積は増え続けていると考える人もいるようだ。
番組では風景石は登場しなかったが、『GEO』でも紹介された容器内で山が生まれる実験は紹介されていた。ヤーコプ教授は大学内で「地球膨張説」について語ることを禁じられているらしく、おそらく「やっかいな学者」なのだろうが、この番組もなかなか面白いものだった。