オーストラリア・ノーザンテリトリー旅行2

翌日はカカドゥ国立公園に向かう。この公園は面積が四国ほどもある、巨大な公園だ。オーストラリア全土の地図を見ていると、なかなか距離感がつかみくい。つい、「大陸」だということを忘れてしまう。三浦半島伊豆半島くらいの距離感覚で、「隣の半島」という目で地図を見ていて、距離をはかると、1000キロ以上離れていたりする。カカドゥも地図で見ているとダーウィンの隣町くらいに見えるが、実際は200キロ以上離れている。ノーザンテリトリーは特に町がまばらで平坦で広大な土地が広がっているので、地図を見ていても面積のイメージがつかみにくい。
今回の旅行は全て自動車を借りて移動した。オーストラリアは右ハンドル左側通行なので、とても運転しやすい。交差点はイギリスと同じラウンドアバウトがある。
国立公園に向かう途中、アーネム・ハイウェー沿いにある「ジャンピング・クロコダイル」ツアーに寄った。これはダーウィン近郊の観光の定番で、肉を竿の先につけてワニに食いつかせるという、いかにも観光地らしいアトラクションだ。ちょっとどうなの?という意見もあったが、折角なので見てみようということになった。いろいろな感想など見ると、がっかりしたという意見は少ないのだ。
船着き場に着くと、先ず係の女二人が蛇を首に巻いて客を迎える。ひとつはかなり大きな蛇だ。娘が早速その「リバー・パイソン」を巻いてもらっていた。後で知ったが、この蛇はなかなか美味らしい。
それにしても、娘はチュニジアで体中に蛇を巻かれたりサソリを頭に乗せられたりしたときもそうだったが、淡々として全く怖がらないので、相手も甲斐がない。少しは怖がってあげたらどうか。

ワニは川に一部を囲ったいけす的な場所で餌付けされているのかと思いきや、川にいる塩水ワニを船で探しに行くのだった。どうせ多摩動物公園のライオン・バスみたいなものなんでしょ?という予想に反し、雄大な景観を楽しみつつワニを見る、なかなかどうして面白いツアーだった。ワニだけでなく、大きなワシに肉をキャッチさせたりもする。
ワニは全体に動きが緩慢で、肉を鼻先につるしても反応は鈍いが、突然素早く体を反転させたりするので、油断できない。体の5分の1くらいが口という、まさに食べるマシーンという印象。

4月末から5月初旬のノーザンテリトリー北部は雨期と乾期の狭間で、天候は良いが、道路が冠水していて入れない場所が少なくない。ジムジム・フォール、ツイン・フォールズなどの有名な瀑布も道が通行止めになっているので、近づけない。公園は水鳥で有名で、乾期に水が引いてくると密度が高くなり群れで舞う姿は見ごたえがあるようだが、それもこの時期はまだまばらで、蓮の花が終わり、睡蓮がまだあまり咲いていないので、公園の魅力を満喫したい人にはあまり良い時期ではないかもしれない。
我々もバードウォッチングで有名なマムカラ湿地などに寄るが、日中の暑い時間帯だったこともあり、ほとんど鳥の姿は無かった。
これはAnggardabal Billabong。一瞬だが、赤いトサカの付いたバンのような鳥、トサカレンカクを見かける。

公園の東端に位置するウビル(Ubirr)に行く。雨期にはここも途中道が水没していて通れない。今回も少し冠水している場所があった。
ウビルは公園内で公開されている岩絵のスポットの一つだ。
アボリジニの岩絵の作成年代に関しては諸説あり、古いもので5万年前まで遡るとも言われているが、少なくとも、約3万年前という測定結果の出たものがあることは確かだ。これはフランスのショーヴェの洞窟壁画と同時代で、おそらく調査が進めばさらに古いものも確認されるとみられている。
特徴的なのは、同じ場所に数万年にわたって絵が描かれてきたことで、ウビルにも最古のものから前世紀のものまで残っている。描くという行為そのものが重視されていたため、古いものの上にそのまま幾重にも絵が描かれていて、渾然一体となったものもある。
このエリアの地形は独特で、厚く層をなしている堆積岩が侵食され、崩れ、根元がえぐられて、上部がひさしのように残ったシェルター状の場所がある。岩絵の多くはこうした場所の壁面、天井面などに描かれている。絵は世界が創られた時代=Dream Timeに登場する精霊や祖先たち、食用の動物、儀式の様子、狩の様子など様々だ。古いものは精霊そのものによって描かれたと考えられていた。


これはMabuyuと呼ばれる人物で、漁師だった。釣った魚が盗まれたことに腹をたて、盗んだ者達の住んでいた洞窟の入り口を夜のうちに塞いで部族もろとも滅ぼしてしまったという言い伝えを示しつつ、盗みを戒めるための絵だと言われている。


これは大きなシェルターがあるメイン・サイトの絵の一部。食用の動物がずらりと描かれている。骨や内臓を透かして見るように描かれているのは「X線技法」と呼ばれるもので、現在のアボリジニ・アートにも継承されている。この様式で描かれた水性動物像はこの地域に水が豊富になり川ができた、約1500年前以降のものだ。


絶滅したタスマニアン・タイガーの絵も描かれている。

これは禁忌をやぶってバラムンディ(川魚)を食べた娘が厳しく罰せられ、それが氏族間の抗争にまで発展したことを示す絵とされている。若者を戒めるための絵なのだと。絵には教育的機能をもったものも少なくなかったらしい。

これは伝説に登場するNamarrgarn姉妹。手に持った糸で人の臓器を病気にするなど、悪しき悪戯三昧の姉妹は、人間を思う存分脅かしたり食べたりしてやろうとワニに変身したという言い伝えがある。

低い「シェルター」の天井に描かれた絵。床に仰向けになって描いたのだろう。

アボリジニ創世神話に登場する「虹の蛇」。非常に重要で力強い精霊で、世界に水をもたらしたとされる。

この絵には「聖地の石をいじった(配置を乱した)ことで、ミヤミヤ(miyamiya)の力によって関節が腫れ上がり、体がガタガタになってしまった人の絵」という説明が。アボリジニの世界には数多くの禁忌があり、これを破る者には重い罰が与えられた。

ウビルの丘の上からは周囲の環境が広く見渡せ、夕日の名所として知られている。