辻惟雄『奇想の系譜』『奇想の図譜』

昨年の伊藤若冲ブームで再注目された辻惟雄の『奇想の系譜』『奇想の図譜』の二冊を続けて読んだ。この人の本は日本美術史の入門書をつまみ読みした程度だったが、無類の面白さだった。岩佐又兵衛伊藤若冲曾我蕭白歌川国芳北斎など、異端視されてきた「奇矯」の画家たちを紹介し、その独創が生まれた背景など、大変な知識量をもって解き明かしていく。紹介されるエキセントリックな画家たちの奇行にまつわるエピソードなども面白い。『奇想の系譜』の方は60年代末に発表されたもので、当時は伊藤若冲歌川国芳も、美術史のなかではあまりまともに扱われていなかったらしい。文化全般的にファンタスティックな、異形なるものに関心を集めていた時代だ。あとがきで、これらの作家の作品が安価でアメリカに大量に流出している状況を心配しているが、実際、今、私たちはボストン美術館などに所蔵されているものを、「おお、こんな面白い絵があったのか」と、ありがたく拝見している。北斎国芳の技法、画中のモチーフなどが18世紀のヨーロッパの博物画の影響を強く受けていることなど、普段あまり美術関連の本を読まない私にとってとても新鮮な内容だった。この人の本を続けて読んでみたいが、絶版のものも多々あるようだ。

奇想の系譜 (ちくま学芸文庫)  奇想の図譜 (ちくま学芸文庫)