ジプシー・ブラス

陽気が良くなってきたかと思ったら、急に冷え込んで、しかも再び仕事場に雪隠詰めになってしまった。昨日の寒さは何だったのか?
ここ数日、ハンガリーのバンドBesh o Dromと、イタリアのOpa Cupaを繰り返し聞いている。情けないことにCDを替える余裕もないので、ほぼ惰性で同じものをかけ続けているのだが、どちらも異様にパワフルなので、疲れた体にむち打って、クソ力を出さなきゃいけない状況には向いている。どちらもジプシーブラス系のバンドだ。
ジプシー・ブラスと総称される音楽に最初に接したのは、エミール・クストリッツァの映画「ジプシーのとき」だった。音楽はゴラン・ブレゴビッチで、映画館を出る前にサントラCDを買ったのだった。映画を見た直後にサントラを買うなんてのは初めてだった。映画も実によかったが(どうして、この作品はDVD化されないのかな?)、音楽がまた新鮮だった。ブレゴビッチは毀誉褒貶のはげしい人で、後に彼の業績はロマの音楽のおいしいところ取りに過ぎないというような批評も多く見かけたが、私にとってはそれまでに聴いたことのないような音だったし、今でも愛聴盤のひとつだ。その後、同監督の「アンダーグラウンド」などで、ジプシー・ブラスは一気にメジャーになり、多くのバンドが来日したが、ちょうどその頃から、私は音楽からも遠ざかっていく余裕の無い日々だったので、ようやく最近になって少しずつ聴くようになった。
Besh o Dromは面白い。バルカンのジプシーブラスというのは、トルコの軍楽の影響下で生まれたスタイルらしいが、最近のバンドはジャズもロックもスカもヒップホップも呑み込んで尚も貪欲なジャンルとなっている。Besh o Dromはその最右翼だ。悪魔を捕まえたことがあるんだよ」という最近盤のタイトル通り、デモニッシュなまでの強欲さと奔放さがある。エスニック・サウンドとポップ・ミュージックの様々な要素がごった煮になっていて、バラバラになりそうになりつつも、強引なまでの疾走感でまとめ上げているような感じ。痛快だ。
Opa Cupaはイタリアの南の端、サレント半島のバンドだ。ジプシー・ブラス・バンドとはいえないのかもしれないが、方向性は近い。地域的にもバルカン諸国とつながりの深いところらしい。アルバム「ホテル・アルバニア」では、9人のメンバーに加え、ブルガリアルーマニアボスニア・ヘルツェゴビナアルバニアサルディーニャなどの国々からミュージシャンが参加していて、バルカン諸国、北アフリカエスニック・サウンドにポップ・ミュージックの諸要素を自由自在に盛り込んだ、トランス・エスニック・ポップ・サウンドといった感じ。ブラス主体の重厚な音だが、独特な軽快さがある。「ホテル・アルバニア」というのは、バンドのリーダーが地元につくったアーティストの交流の場の名前らしいが、ジャケットは迷彩服を着たマリア像が北米が大写しになった地球儀を踏んづけている意味深なものだ。中には「戦争」と題した詩のような、メッセージのようなカードが入っていたが、いかんせんイタリア語なので、読めない。盤はエスニック・サウンドを積極的に紹介しているビーンズ・レコードの日本盤なのだが、ペラ片面に解説があるだけで、詩の内容などについては何のコメントもない。このレーベルが紹介するバンドは面白いものが多いのだが、いつも「ペラ片面」なので、2940円もとるならもうちょっと何とかしてほしいんだが。



ギー!! Once I Catch the Devil [rakuten:ebest-dvd:10990909:image]