新風舎などの怪しい商売

長い長いトンネルをようやく抜けた。例年忙しい季節ではあるが、今年の詰まり具合は半端でなかったので、かなりこたえた。長らく娯楽っぽいものから遠ざかっていたので、つい「24」のシーズンVを借りてしまったが、これが大失敗で、より疲れてしまった。もう、「1日の出来事」という設定が無理すぎる。陰謀大統領の顔はやはりニクソン系なのだが、中身はブッシュ政権のパロディーともいえる。それにしても、「大統領の陰謀」の時代には、合衆国大統領が盗聴を指示していたというだけで、「そんな、大統領ともあろう人が..」という感じで、もう国の威信が地に墜ちたというような扱いだったのが、今は普通に「あいつら何してるかわかったもんじゃない」という感じ。ずいぶんと変わったもんだ。

共同出版」でボロもうけしていた新風舎が提訴された。最近のこの手の商売はかなり問題視されていたので、初めて訴えられたというのがちょっと意外だった。同じような商売をしていて既に計画倒産している版元もある。訴えた理由が「全国主要書店に置きますという話だったが、全く書店に置かれた形跡がない。」というようなものだったようだ。懸賞などを餌に応募者の原稿をべた褒め、費用は出してもらうけど、うちも協力して全国の書店に配本したり広告を打ったりします、ですので、決して自己満足の「自費出版」じゃないですよ、という「共同出版」というビジネスなのだ。実際は一部の、版元と契約している書店以外はほとんど店頭に並ぶことはなく、廃棄されていく。夕方のニュースを見ていたら、自分の本の在庫を確かめたくて、倉庫をつきとめたイラストレータが、在庫を見せて欲しい、いや、見せられない、と、倉庫の入り口で押し問答していた。費用を150万円とか自分で出しているのに、出来た本は出版社のものなのか? よくわからない。ニュースでは、元社員の覆面談話として、在庫は第二市場に流したりしていたのではと紹介していたが、それもあまり考えにくい。買い取る業者がいるとも思えないからだ。おそらく断裁、あるいは元々契約通りの部数を刷っていないのではないだろうか。500部という数は決して少なくないからだ。
原告の一人である元大学教授の本は見たところ200頁弱くらいの、並製本だった。5、60万円もあれば作れるようなものだ。これに170万円払ったとか。元大学教授というなら、出版社の事情に少しは通じていてもいいはずで、「全国の書店に並ぶ」ようなことがあるかどうかわかりそうなものだが、問題は「並ぶ」かどうかではなく、金額ではないかと思う。書店に並べるかどうかは書店側の判断なのだから、という逃げ道が最初から設定されている。が、170万円という金額は、元原稿と出来上がった本と比較し、制作途中の経過などを見れば、ほとんど何の仕事もしていないのに「編集費」というような名目で数十万円もつけていたことが明らかになるはずだ。これで、もし刷り部数が契約通りでなかったり、市場に出さずに廃棄したりしていたことが証明されれば、詐欺的行為として訴追できるだろう。出版社のマニュアルには、原稿を読んでもいないのに、どうやって褒め、金を出す気にさせるかという、褒め言葉の用例などがまとめられていた。なんでも、新聞書評などを参考に、「褒め方」を考えていたという。褒めるのはこうした商法の「要」なんだから、褒め言葉くらい自分で工夫しろよ、と思う。
件の大学教授のように、ある程度の年齢になっていて、それなりに蓄えもある人ならまだしも、イラストレータや絵本作家を志している若い人から百数十万円もとるというのは、質の悪い商売なのだ。私の周辺にも、絵本の懸賞に応募して、「選にはもれたけれど、素晴らしい作品なので、出しませんか」と、共同出版をもちかけられた人がいる。「素晴らしい作品ですね」と、言われれて、なんとかお金を工面しようかという気になりかかったという。
私は出版社の制作現場にいたこともあるので、親戚筋から自費出版の手伝いを頼まれたことがある。250頁ほどのハードカバー、カラー印刷の貼函入り、カラーの口絵付きで、手書き原稿から組み版をして、仕事量に見合った制作費をもらっても、250部で100万もかからなかった。おそらく今はもっと低コストでできるだろう。