メキシコのミラグロ

長距離走が好きになっている娘が、まじないにメキシコの「足」のミラグロをつけて走るとか走らないとか言っていた。
ミラグロは英語でいうとmiracleなのだが、メキシコの奉納品で、一種のまじない、チャームのようなものだ。日本で、眼病に効くという神社で「め」と書かれた絵馬を奉納するのと同じように、小さな真鍮などでできた手、足、目、その他様々な部位などをかたどったものを奉納して、病気直しや願掛けに使う風習がある。沢山のミラグロを木製の十字架にびっしりと貼り付けたものもあり、メキシコ特有の民芸にもなっているが、富裕層の子女には大きく豪華なミラグロ的祭壇ともいえるものある(あった?)ようで、メキシコの骨董品店などを覗くと、蓋付きの祭壇に人形の手足が貼り付けてある、非常にリアルかつ生々しいものが展示されているのを目にする。
写真は衣装ケースほどもあるような大きなもので、扉を開けると血の跡も生々しいイエス磔刑像が入っていて、裏蓋に人形の部位が吊してあるというものだった。少女のまじないというにはあまりに度を過ぎた印象の、どこかダリオ・アルジェントの映画とか、ヤン・シュヴァンクマイエル人形アニメを思わせるようなもので.....これが部屋に置いてある生活というのはどんなもんなのかと驚いてしまう。
以前、久美沙織さんの「コバルト風雲録」という、ライトノベル草創期の経験を語る本の装丁に小さなミラグロを沢山貼ったオブジェの写真を使わせてもらったことがある。少女文学にはチャームが不可欠かなと思ったのだが、この祭壇を見ると、彼の地との身体感覚の違いが際だつのだった。