今日、最初に勤めた出版社で世話になった印刷所が、事業の見通しがきかないため廃業、という知らせを聞いた。
既に引退しているが、その印刷所のベテラン営業マンは本作りについて、知りぬいている人だった。印刷会社の営業職に就く前に編集者をやっていたので、出版社の事情についてもよく分かっている人だった。どれだけ多く教えてもらったか知れないし、頼りにしていた。「あんたらだけで本ができると思ったら大間違いだよ」という営業マンらしからぬ不機嫌な雰囲気を端々で醸し出すところがあり、新米時分、大いに緊張する人だったが、こちらが本当に困っているときは、何かと助けていただいた。
明日の朝7時に来い。校了するからなんとか間に合わせろ、と偉そうに呼びつけ、3時間も待たせておいて、「まだ出来てないから、出直してくれ」と、平気な顔をしているしょうもない編集長に怒って帰る彼を追いかけてひたすら詫びたのは、なんともう四半世紀前も前のことか。ことあるごとに思い出す。
その頃、既に60に近かったと思われる彼は、自分で小さな紙片をピンセットで挟み、数百枚の版下にひとつずつ切り貼りしていた。今の私にはとてもできない。

ホッケとかタラとかボラとか、あぁ日本の国はいい国だ、とか、言ってる場合じゃないのだ。