越後行き

20年前の出版社時代の後輩で、大学で歴史地理の教授になった田中達也氏から初の単著の装丁をして欲しいとの依頼があった。大して役にも立たなかった先輩を気にしてくれたことも嬉しく、また、研究のテーマが新潟県関川村の近くであり、さらにそのすぐ東にはこの夏アブに追われてメノウ採取を断念した小国の沢があるという、偶然とは思えない巡り合わせで、装丁の素材写真を撮りに二人で出かけた。
村上市内には鎌倉時代の記録に残っている古い集落があり、田中氏は20年余にわたって調査をしている。
地域を一望する写真を撮りに平林城跡の山に登った。春先に足を怪我してからあまり歩いていなかったこともあり、ちょっとした登りでもしんどいことに改めて驚き、大いに落胆。なんとかせねば。


関川村は、ワラで編んだ猫のねぐら、「猫ちぐら」を作っている里として知られている。今年、猫ちぐらを軸にこの村の暮らしを紹介した写真集『しあわせ猫ちぐら』のデザインをした。清真美さんの撮り下ろしで、地元の方言と写真を合わせた、実に愛すべき本なのだ。


小国は、球顆流紋岩の中にメノウやオパールが入っているサンダーエッグが採れる沢があるというので、この夏娘と採取に行ったのだが、川岸に降りて数分で、アブに追われつつ逃げ帰った。
今回数ヶ所で探石したが、メノウはあまり多くない。小さな穴がたくさん開いた流紋岩は多くあり、穴はほとんど空洞なのだが、中には球顆が入っていて、中にメノウが詰まっているものもある。
大きなサンダーエッグの欠けたものがあった。一抱えほどもある。欠けていなければ、立派な標本だったのだが。近所のガソリンスタンドで、「このへんは熊は出ます?」と聞いたところ、「出ます出ます。こないだもこの近所で干し柿を食べに来たのがいるし、道で車にはねられた熊もいましたから」と。沢に降りる道の端になんだか怪しい糞もあり。