オルメカ「石頭」狩り

lithos2007-08-27

カタンのマヤ遺跡巡りの後、ビジャエルモッサからベラクルスに飛んだ。ベラクルスはメキシコ湾岸沿いの大きな貿易都市なのだが、夜着いて翌朝早く出発してしまったので、ほとんど町を歩くこともなかった。印象に残っているのは、異様に湿気が強かったことと、ホテルのレストランのオバチャンに妙に気に入られたことだ。「食後に何かどおン?」というので、じゃあ、アイスクリームを...と、はずみで頼んだら、見本の写真の倍ほどのボリュームの山盛りのアイスが! 「サービスよ、サービス」といいつつウインクするオバチャン...。努力はしたがメチャメチャ甘く、とても食べきれる量ではなかった。あやうく吐きそうになった。
翌日は南に下って山間の町Xalapa=ハラパへ。この町の大学内にある考古学博物館にオルメカの「石頭」がたくさんあるからだ。
オルメカは紀元前12世紀ころから栄えた中米最古の文明なのだ。未だ謎が多いのだが、ピラミッドや絵文字、ゴムボールを使った球技、ジャガー信仰など、マヤなど、後の諸文化に受け継がれる要素の原型がほぼ揃っているので、「古代文化の母」と呼ばれていた。現在は「全てはオルメカ起源」という説には異論も多いようだが。
オルメカは大きな岩を彫り上げた様々な遺物を残したが、中でも最もユニークなのは最大で高さ3メートル以上にも及ぶ、巨大な人頭石像だ。19世紀後半に最初のものが発見されて以来、メキシコ湾岸地域の開発が進むにつれ続々と見つかり、現在全部で17個発見されている。
唇の厚い、頭にヘッドギアのようなものをつけた、表情もリアルな彫刻だ。頭だけを、これほど大きな岩を使って彫り上げた遺物というのは、他の中米文化、いや、世界のどこを探しても見あたらない。オルメカの石像は小さなものを含めて、ほとんどが頭の長い、目が細くつり上がった顔をしたもので、これらの巨大な「石頭」は、オルメカ産のものとしてもユニークな姿なのだが、以前はアフリカ系の顔に見えるという意見もあり、大陸間の交流があった証拠と主張する人もいた。実際にメキシコを旅行すると、こういうタイプの顔も少なくないのだが。
私は何故かこの「石頭」に惹かれる。元々、「規格外れ」な遺物全般に興味があるのだが、ばかでかい石頭は「規格外れ」の最たるものだ。以前ビジャエルモッサ市内にある、ラベンタで出土したオルメカの遺物を集めた野外博物館を訪れ、「石頭」三つを見ていた、これにメキシコ・シティーの国立人類学博物館にある二つを加え、5つ見ていたわけだが、今回さらにビジャエルモッサの別の博物館にある一つ、さらにハラパにある7つを加え、全部で13の「石頭狩り」が完了。あと4つ!


石頭はどれも表情豊かで、明らかに特定の個人の顔を写し取ったものだ。政治的有力者、統治者の姿であろうという説、球技などの勝者などの顔という説、いろいろあるようだが、一見して、貴族、王族の顔としてはいかにも厳つい感じがする。オルメカ人の特権階級は頭を細長く変形させていたが、これらの石頭の人々にそうした変形は認められない。ヘルメットを被っているので、戦士像と呼ばれていたこともあるが、最近はそうした記述はあまり見かけない。石を運ぶにも、彫り上げるにも、大変な手間がかかったであろうから、特別な人々であったことは確かなのだろうけれど。
とてもリアルな石彫なので、最も保存状態のいいものを、どんな顔になるか彩色してみた。「石頭」には寄り目のものが多い。なんだか気持ち悪い顔になった...。
高見盛によく似たのもいるな。