東京ミネラルショー

池袋のサンシャインシティー文化会館で開かれている鉱物と化石の展示販売会、東京ミネラルショーに行ってきた。毎年この時期に開かれているが、年々、参加店数が増えているように思う。6月に新宿で開かれる国際ミネラルショーがあまりに混雑しているので、こちらの方が落ち着いて見られていい。ただ、もともと新宿のショーと袂を分かった業者が主宰しているので、参加している店のラインアップは結構違う。新宿のショーに比べて、ロシアと中国の業者が多いように感じられる。ロシアなどは博物館の鉱物学者の肩書きをもった人が売りに来ていたりするのだが、アルバイトなのか? あるロシア人の店で石を買い、少し話した後、うっかり金を払わないまま立ち去りそうになった。一歩踏み出したところで、「おい、金がまだだろ」と呼び止められ、すげえ怖い目で睨みつけられたのだった。品物を受け取ってからあれこれ質問したのを、落語の「時そば」みたいな「手」だと思ったのか? そういうことをするような顔に見えるの?
インドのデンドリティック・アゲート、カザフスタンのデンドリティック・アゲートを買って帰った。めのうの層にマンガンなどの成分がしみ込んで樹状の模様を作っているものをデンドリティック・アゲートと呼ぶ。インドとカザフスタンはこうした瑪瑙の良質なものが採れることで知られている。透明な水晶の中に同じようなものが出来ているものはデンドライトなどと呼ばれて、これも好きな人は多いが、私はむしろめのうの濁った曖昧さに惹かれる。
デンドリティック・アゲートには木立のある風景のように見えるものがあるため、トリミングして、背景に色を付いた石を入れるなどして、小さな絵に仕立てる趣味がある。インタルシアと呼ばれ、欧米で愛好家がいるようだ。風景のように見える石の模様に手を入れて、絵画に仕立てるという工芸は歴史が古い。ルネサンス期にフィレンツェで採れる「あばらや石」と呼ばれる大理石に人物を書き加えて、神話や叙事詩の場面に仕立てたものを、メディチ家が数多く所蔵していたらしい。私はロジェ・カイヨワの「石が書く」という本を読んで以来、石の模様に惹かれるようになったが、このように自分で石に手を加えて「絵」に仕立てるということにはあまり興味が沸かない。でも、石の模様を使って、主人公が石の中の風景を巡り歩くような絵本か短い映像が作れないかと、ここ数年ずっと考えている。
マッキントッシュ・コンピュータの誕生に関わった伝説的なプログラマービル・アトキンソンが出版した本、「within the stones」は様々に特徴的な石の文様のクローズアップ画像を高品質な印刷で見せる本だ。値段が理不尽なまでに高いが、日本のデジタルデータの出力サービスなどを行っている帆風が企画した本で、印刷も全て日本で行っているらしい(なのに、なぜ英語版よりも日本版の方が倍ほども高価なのか?)。収められている石のサンプルはどれも一級品だが、できればクローズアップ画像だけでなく、撮影に使った石の全体像も入れてほしかった。
(私のウェブサイトにも同じような趣旨の頁があるので、興味のある方は是非)  http://www.lithos-graphics.com/stones/stoneindex.html


Within the Stone


 
左がインド、右はカザフスタンのデンドリティック・アゲート